『おおきく考えようー人生に役立つ哲学入門ー』ペーテル・エクベリ作、イェンス・アールボム絵、晶文社 、2017年10月
出版社HP http://www.shobunsha.co.jp/?p=4436
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(訳者あとがき)
1.前作『自分で考えよう』について
本書『おおきく考えよう――人生に役立つ哲学入門』(原題:TÄNK STORT: EN BOK OM FILOSOFI FÖR UNGATÄNKARE )は、2016年10月に邦訳が出版され好評を博した『自分で考えよう―― 世界を知るための哲学入門』(晶文社)の続編ですが、前作を読んでいない人でも楽しめる内容になっています。
前作がスウェーデンで発表されたのは2009年、作者ペーテル・エクベリのデビュー作にして、スウェーデン作家協会のスラングベッラン新人賞にノミネートされ、ドイツ語、韓国語、デンマーク語、ロシア語、ポーランド語などに翻訳されました。
↑作者のブログより http://peterekberg.blogspot.jp/
2.作者経歴
作者はそれから、ロボットや宇宙についての知識読みものや絵本、SFシリーズなどを発表し、本作『おおきく考えよう』(2015年)で、優れた児童ノンフィクション作品に与えられるカール・フォン・リンネ賞にノミネートされました。その後も立てつづけに作品を発表し、児童書作家としてのキャリアを着実に積んでいます。
3.本作の主なテーマ
本作は、冒頭で「これは人生についての本なんだ !」と述べられているように、人生をどう生きるかが主なテーマになっています。具体的には、
●人生でいちばん大切なことはなにか、
●人生の意味とはなにか、
●自分がこの世界に存在するとはどういうことなのか、
●自分はいったいなに者なのか、
●なにを選択したかによって自分がどう変わるか、
●男らしさ、女らしさとはなんなのか、
参考:亜紀書房『バッド・フェミニスト』
Feminism For Everybody『男も女もみんなフェミニストでなきゃ』読書会、個人的感想
●勇敢、親切、正直であるとはどういうことなのか、
●できるだけ多くの人にとって、よい社会をつくるにはどうしたらいいのか、
などが書かれています。
4.アクティブ・ラーニング
前作でも本作でも、日本でいまアクティブ・ラーニングと言われ注目されている主体的で対話的な学びが自然な形で実践されています。現在の教育現場では、
●子どもたちが課題の発見をし、答えはかならずしも1つではないということに気づくまで先生が導けても、授業の目的、最終的になにを学ぶかが絞りこめず、深い学びにまで行き着けない、
●生徒が主体的に自由に出した答えを、どう評価したらいいか判断に迷う、
といった声が挙がっていると耳にします。
そこで先生に求められるのは、
子どもたちの主体性を促しながらも、彼らが議論のなかで公正、理性的、倫理的にものごとの善悪を判断できているか、また理由づけがしっかりできているかを見極めたうえで、示唆に富んだ問いかけをし、深い学び、分析、問題解決へと導く力です。
そのためにまずは先生自身が、
公正とは、理性とは、倫理とは、善悪とは
なにかを改めて考え、再定義する
必要があるのではないでしょうか。
アクティブ・ラーニングの本場、スウェーデンで書かれた本作では、それらの言葉についてとことん突きつめた考察がされています。本作の、とくに黄色地のアクセントがついた問いは、子どもたちの主体的思考を促すために、どんな声がけをしたらいいかのヒントになることでしょう。
5.さらに知りたい方達へその他の推薦図書
北欧の教育のあり方、教育者が具体的にどう子どもに声がけをし主体的な思考を促しているのか、もっと知りたい人は、『新しく先生になる人へ――ノルウェーの教師からのメッセージ』(アストリ・ハウクランド・アンドレセン、マーリット・ラーシェン、バーブロ・ヘルゲセン著、中田麗子訳、新評論)、『スウェーデンの小学校社会科の教科書を読む:日本の大学生は何を感じたのか』(ヨーラン・スバネリッド著、鈴木賢志、明治大学国際日本学部鈴木ゼミ訳、新評論)、『あなた自身の社会 ―― スウェーデンの中学教科書』(アーネ・リンドクウィスト、ヤン・ウェステル著、川上邦夫訳、新評論)をご参照ください。
また『ルビィのぼうけん こんにちは! プログラミング』(リンダ・リウカス作、鳥井雪訳、翔泳社)にはじまるフィンランドのプログラミング教育についての絵本シリーズも、参考になります。日本ですでにこの絵本の著者を招いたセミナーやワークショップが開かれたことがあるようです。
アクティブ・ラーニングで主体的な考え方ができるようになった子どもたちが将来それを生かすには、トップダウン型ではなく水平方向での議論、民主的対話ができる社会をつくっていかなくてはなりません。『スウェーデン式ダイバーシティで日本が変わる』(ダーグ・クリングステット著、文化堂印刷)にはスウェーデンの新聞社が「権威や上下関係は自由な言論の妨げになるので廃止しよう」と呼びかけたことなど、日本の企業、組織にとってもヒントとなりそうなアイディアがつまっていますので、ぜひ読んでみてください。
またグローバル化社会で生き抜くため、民主主義の徹底された社会の実現も求められています。北欧の民主主義については『10歳からの民主主義レッスン』(サッサ・ブーレグレーン絵と文、にもんじ まさあき訳、明石書店)という素晴らしい本が出されています。
6.悩んだ時哲学書を読む
前作『自分で考えよう』では、
●これまでの歴史でどんな哲学の問いが立てられてきたのか、
●哲学的にものごとを考え、道徳的判断を下す際に用いられる理性と
●議論について、
●公正や善とはなにか、
●ものごとを思い浮かべるとき、頭のなかでなにが起きているのか
など、哲学のおおきな枠組み、基本的な考え方が示されていました。そのため読者の皆さんが人生で壁にぶつかったり悩んだりしたとき、それぞれのケースと照らし合わせ、自分なりの答えを探す助けとなったのではないでしょうか。
訳者である私自身も「 Yahoo! 知恵袋」などの悩み相談サイトを見て悶々とする代わりに、前作のページをめくることで、
●いま自分が抱えている悩みは昔の人たちや哲学者もぶつかってきたものなんだ、
●それらは哲学の世界ではよくある問いで、疑問に思うのは自分だけじゃない、
●ものごとを深く突きつめて考えるのは悪いことじゃないんだ、
と気づかされ、何度も励まされてきました。
一方、本作『おおきく考えよう』は
●人生の意味とはなにか、
●幸せとはなにか、
●人間としてどうあるべきか
など、生きる道を模索する若い人たちのヒントとなる実用的な内容となっています。
7.悩める若者へのメッセージ:「考えるのはきみだ。だって、きみの人生なんだから」
私もとくに高校生のとき、自分はこれからどんな人生を生きていったらいいのか、人生の意味とはなんなのか思い悩んでいました。
受験戦争を勝ちぬき、いい会社に入って、やがては結婚し、子どもをもうけ、子育てをするのが正しい生き方で、レールから外れるのは許されないような気がして、窮屈で怖いと感じていました。
作者は本作で、人間とは本来自由な選択肢を持つ生きものだと述べていますが、その頃の私にはそうは実感できなかったのです。
あの頃の自分のそばに、
「自分の手で、意味のある人生をつくるんだ!」
「きみがなにを言い、なにをすべきか、だれにも決める権利はない」
「考えるのはきみだ。だって、きみの人生なんだから」
と言ってくれる作者のような人がいたら、もしくはそういう人がどこかにいるかもしれないと気づけていたら、ど
んなに心強かっただろうと思わずにはいられません。
枇谷玲子