『ウッラとベンディック町をつくる』(Ulla & Bendik bygger by)、オーシル・カンスタ・ヨンセン(Åshild Kanstad Johnsen)

『ウッラとベンディック町をつくる』(Ulla og Bendik bygger by)、オーシル・カンスタ・ヨンセン(Åshild Kanstad Johnsen)、Gyldendal Norsk社、 2016年、40ページ
ullaogbendik
町づくりを子どもの視点からのびやかにまた鋭く描いた絵本です。ノルウェーの新聞Dagbladet紙のレビューで6つ☆を獲得しています。
*********************************************************************
(あらすじ)
 遠い町から引っ越してきたウッラいう女の子が、集合住宅の近くのベンチで
ジャングルについての本を読んでいた男の子ベンディックに話しかけました。
「わたしはジャングルからひっこしてきたのよ」
 けげんそうな顔をするベンディックウッラはこう言いなおします
「ジャングルみたいな町っていったほうがいいかしら。木の上に家があって、
学校にいくきに木のみきをつたっておりたり、吊り橋をわたったりしたわ。
ラやライオンもいて、いつおそわれるかわからないから、車は空をぶの」
ベンディックはそんなわけない、本をよみつづけました。
たいくつしたウッラベンディックの本をじるいいました。
「この町ってつまらない。車やショッピングセンター、駐車場、
マンション、どれもこれも四角くて灰色じゃない!」
ulla4
出典(Kilder):http://www.barnebokkritikk.no/pa-gjenoppdagelsesferd-i-voksenverdenen/#.VwrmZDCLQ9Z
「この世界にはいろいろな形や色があるのに!」
ウッラはさけびました。
「そうだ、いいこおもいついた。じぶんたちで町をつくりかえればいいのよ!」ウッラ
「子どもにそんなこできるわけないだろ」ベンディック
「どうしてよ? 大人より子どものほうがずっおもしろいこをかんがえつくじゃないの。
子どもが町をつくるべきよ!」
「あ、そう。がんばって」ベンディックは家にかえろうしました。
ウッラがあをおいかけます。
 ベンディックのおうさんはウッラにもゆうはんをだしてくれました。
ウッラは魚の上につけあわせのブロッコリーじゃがいも、グリンピース、
にんじんをおく、「公園みたいでしょ」いいました。
するお父さんが「食べものであそんじゃだめだよ!」注意しました。
 そのあベンディックウッラを子ども部屋にあんないしました。
机の上にはスケッチブックがありました。
 スケッチブックにはベンディックのかいた町の絵がありました。
「物語でよんだ町を絵にするのがすきなんだ」ベンディック
するウッラがさけびました。「わたし、こういう町にすみたい!
木のぼりしたり、ボーをこいだり、坂をのぼったり、おもいっきり自転車をはしらせたりできるもの!」
「町づくりをしている人たちに、はなしてみようか」ベンディック
 ふたりはどんな町にすみたいか、はなしあいました。
「四角いだけじゃなくて、いろいろな形のたてものがあったほうがいいわ」
「小高くなっていたり、かくれたりできる場所があってもおもしろいよね。
噴水もほしいな!」
「それに高い木も。ツリーハウスや橋はどう?」
「車専用のレールもつくる?」
「町の中に遊園地もあったら楽しいね」
「町のあちこちに無料のジュース・サーバーをおきましょうよ」
「でもそうしたら歯医者さんがもっひつようになるよ」
「地下にも秘密の部屋や洞窟をつくりましょうよ。秘密の階段や
エスカレーターも」
 つぎの日、ベンディックが石のコレクションであそんでいる
ウッラがあらわれました。ごみ捨て場からひろってきたガラクタをつかって
町の模型をつくったのだそうです。
「それはぼくらの町じゃない。きみの町だ」
ベンディックウッラがかってにひりで模型をつくったこ
きにいりませんでした。
「でもきのうはなしあったアイディアをもにつくったのよ」
 その時ウッラはバランスをくずして模型をおしてしまいました。
ふたりはちらばったがらくたをかたづけながら、もういちど
町の模型をつくりはじめました。
 ペンキで色をぬったり、ボンドでくっつけたり。
 次の日、ふたりは市役所の担当者をたずねました。
 模型をみせ、プレゼンテーションをします。
ulla
出典(Kilder):http://www.dagbladet.no/2016/02/06/kultur/pluss/ekstra/litteraturanmeldelser/anmeldelser/42994575/
 担当者は「すばらしいアイディアだけど、子どもが町をつくるなんて
きいたこはないわ。町づくりにはいろいろな法律やきまりがあるのよ」いいました。
「じゃあその法律っていうのを今しらべてください!」ウッラは叫びました。
担当者は子どもが町をつくってはいけないって決まりがないこきがつきました。
「いままできみたちみたいなこをいってきた人はいないよ」
「それは皆カーテンや窓をしめきって、じぶんたちのくらす町に無関心だからでしょ。
町がこんなに灰色でどんよりしているに、どうして大人はきがつかないの?」
 担当者ははっして、自分のくらしをふりかえってみました。
ulla3
出典(Kilder):http://www.barnebokkritikk.no/pa-gjenoppdagelsesferd-i-voksenverdenen/#.VwrmZDCLQ9Z
 仕事が終わるエレベーターで市役所の地下の駐車場にいき、車にのりこむ
子ども達をむかえにいきます。スーパーでかいものをおえる
マンションの地下の駐車場に車をめます。それからエレベーターで部屋にいき、夕飯をつくって
食べ、テレビをみて、ねる。窓の外をながめるこなど、たしかにほんどありません。
 担当者はいいました。
「今度港の近くの一角を再開発する予定なんだ。
古いお店がみな閉店してしまってすたれてしまっているからね。
町の人たちにきみたちのアイディアをつたえてみるよ」
「やった、約束だよ!」
ウッラベンディックびあがってよろこびました。
(看板の文字)
ウッラベンディック工事中
1年後
ウッラとベンディックの町ができあがりました!
ulla2
出典(Kilder):http://www.litthusbergen.no/program/2016/05/aashild-bygger-by/
*********************************************************************
(この本の素晴らしいところ)

 大人になると時に思ったことを率直に言えず口をつぐまざるをえないことがあります。この作品では、子どもが主人公だからこそ大人が言えないこと、忘れてしまったことを鋭くえぐり出せているように思えます。ウッラとベンディックは市役所の町づくりの担当者に、大人たちがカーテンや窓をしめきって、じぶんたちのくらす町に無関心で、町が灰色でどんよりしていることに気がつかないんじゃないかと言います。その言葉を聞いた担当者は、仕事と家を往復するだけで町を眺める心のゆとりがない自分たちの生活を振り返り、はっとさせられるのです。

 町づくりをテーマにした絵本には、他にこんな作品があります。
ぼくのまちをつくろう! ぼくのまちをつくろう!
作:スギヤマ カナヨ出版社:理論社絵本ナビ
 http://bhjinbocho.exblog.jp/23700751/(ブックハウス神保町のホームページより)
http://www.rironsha.com/?mode=f58(理論社ホームぺージより)
 ワークショップも行われているようで、とても楽しそうです。
 私もこの本を小学校の読み聞かせに使ったことがあります。オーシルさんの作品が現実と夢の中間だとすれば、この作品は子どもの夢をファンタジックに描いた作品と言えるでしょう。ただ1つだけ難しいと思ったのは、建物の形がどれも四角くて一見しただけでは、どの絵がどの建物を指しているか分からないところです。かなり小さな絵本で、建物1つ1つが小さいので、教室での読み聞かせに使うのは難しい面があるように感じました。家で読んだり、ワークショップに使うには最適の作品なのでしょう。
 一方、オーシルさんの作品では、建物の色も形も斬新で、どの絵が何の建物をあらわしているのか一目瞭然ですので、読み聞かせにも使いやすいと思います。もちろんワークショップもできそうです。
 またこんな作品もあります。
ぼくたちのまちづくり 4 楽しいまちなみをつくる ぼくたちのまちづくり 4 楽しいまちなみをつくる
出版社:岩波書店絵本ナビ
  町づくり計画コンテストに小学校の子ども達が参加する話なのですが、この作品は絵本というより読み物に近く、読み聞かせ用につくられたわけではありません。また今回の作品以上に現実的に町づくりが描かれています。
 オーシルさんの作品では、市役所に直談判に行くという現実的な手順が踏まれている割には、2人の意見があっさり通ってしまうところが、少し不思議に思えました。というのも私も娘が保育所に通っている時に保護者の会から年に一度市に提出する要望書に、保育所の門が重くて両手で開けなくてはならず、その間に子どもが道路に飛び出してしまうので、門を軽いものに変えるか、車が侵入しないようボラードをつけてほしいと書いた際、要望が通るまでに時間がかかったからです。
 ただ現実をそのまま絵本の世界で描く、つまらないものになってしまうのかもしれません。
 ウッラとベンディックがつくったのは、子どもたちが遊びやすい町でもあります。今、日本では公園でボール遊びをしてはいけないとか、様々な規制があり、子ども達の遊び場が減っています。
http://ure.pia.co.jp/articles/-/37133(“遊べない子”が増えた!? 公園の「禁止事項」増加が子どもの心に与える影響)
http://women.benesse.ne.jp/akuiku/riyu/index4.html( 子どもの環境変化と遊びの重要性)
https://www.posa.or.jp/outline/pdf/tokyo04-info141203.pdf(まちづくりからみた遊び環境の実態、課題)
 大人が一生懸命に遊び方を教えずとも、子どもは何でも遊びに変えてしまう遊びの天才です。その子ども達が今、遊ばなくなっている(もちろんそれでも遊んでいる子は一杯います)というのは、私達大人が作り出した社会環境により彼らの行動が相当に制限されているということなのではないでしょうか。
 私の娘の学校では保護者会の時間に、地域の方たちや保護者がボランティアで子ども達に小学校の体育館でボール遊びやトランポリンなどをさせる活動が行われていていて、うちの娘もその時間をとても楽しみにしています。とてもありがたいです。
 ただ子どもが大人の手を借りずとも毎日、安全に遊べる環境があったらどんなにいいかと願う気持ちもあります。
参考:http://reikohidani.net/1456/(ミンダナオの子ども達について、松居友さんのお話)