北欧の子育ての本について(脳科学か心理学か)

日本には北欧の子育てについて関心が高い人が多いようです。私は北欧で育ったわけでも、北欧に住んでいるわけでもないのですが、主に本を通じて、私なりに北欧の子育てについて知り、考えてきました。出会う本の中で、日本でも受け入れられそうな本があればぜひ訳したいと思っています。

でも子育てって本当に難しい分野だと感じています。

例えばフェミニズムの本については、北欧全体のフェミニズムの議論がどんなもので、様々な立ち場の人の意見を概括した上で、著者の意見を提示した本がいくつか出ているのですが、子育ての本については、これ1つ訳しただけでは全体像が見えない本ばかりで、頭を抱えてしまっています。

私が北欧の子育ての本を訳したいのは、日本で子育てしていて、辛いと思うことがよくあるからです。子育て支援センターで親学の講座に何度か参加したのですが、私の偏見かもしれないのですが、子育て支援センターは土曜少しやっているところもあるものの、主に子育てに専念している人に向けた施設であるように思えます。私が支援センターで受けた親学の講座でも、もっともっと子どもに手をかけてあげようというもので、働いている親への視点や配慮が欠けているように思えました。

実際、働いているお母さんだって子どものことをもっと知りたいし、子どものことを思っている人はたくさんいて、そういうお母さん達が、例え時間は限られてはいても、子どもの成長について学び、喜びを感じることができるような本を訳したいと思っています。

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北欧の子育ての本でとても有名なものに、イェスパー・ユール(Jesper Juul)さんというデンマークのファミリ―・セラピストの作品群があります。

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北欧の教育では子ども達の自尊心を高め、自分にも価値があるんだと子ども達皆に思わせることが重視されているように私には思えます。アメリカのエリート教育とは異なる北欧の教育観が私はとても好きです。

北欧では親が絶対的な権威ではなく、子どもの意志を尊重し、なぜそうしてはいけないか理由を説明する傾向が日本よりもあるような気がします(実際は本当は説明しなくてはならないけれど、時間がなかったり根気が続かなくてただダメと言ってしまうこともあるようですが)。体罰も禁止されているようで、余計に親はどうやって子ども達にいいこと、悪いことを言葉で教えるか、どこまで子どもの意志を尊重し、どこからはしてはいけないことと線引きするのか、頭を悩ませているのでしょうか。そういったことをテーマにした本が多く出されていて、特にイェスパーさんの本は、国際的に評価が高いようです。

同じデンマークのリーダー論、コーチングが専門で、LEGOなど様々な企業でも研修を行っている Anette Prehnさんの本もデンマークではよく売れているようです。

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デンマークの作品に52件もレビューがついているのはとても珍しいことです。

Anetteさんはデンマーク人ではじめてNeuroLeadership Summitで講演を行った人で、脳科学をどう経営、人材育成、指導、日々の業務に生かすかについて講演、研修を行ってきた人で、2009年には優れた講演者に与えられる賞も受賞しています。

彼女のベストセラー”Brain Smart”の2連作は、子どものしつけ、声かけ、コーチングの本。脳の仕組みを知った上で、それをどう実際の子育てに生かしたらいいかを描いた本です。実践を重視した本で、親として子どもに接していて困った時、具体的にどうしたらいいか、脳のしくみを説明しながらとてもとても読みやすい易しい言葉で描いた本で、デンマークの親、教育者など様々な人に支持されています。ただアネッテさんはリーダーシップ、コーチングがご専門で、脳科学については恐らく独学ではないかと思います。脳科学についての説明は、章ごとに出てはくるのですが、こういう研究があって、こういうエビデンスがあり、という記述は少なめ(あまりそこを描きすぎると、難しくなりすぎるのも理由?)。子どもを導くコーチングの部分の方がやはりご専門なのではないかと読んでいて感じされられるものです。

彼女が面白いのはDafoloという教師向けの教授法についての本を出している会社から、子ども向けの脳の仕組みを知って、生活に生かす『脳と友だちになろう』シリーズ(各巻24ページ、3冊)を出しているところです。

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日本でも子ども向けの脳科学の本は少しだけ出ているようです。
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子ども向けの実用書で最近ヒットが出ているようなので、こういう本も可能性があるように思えます。

私が惹かれているのはデンマークの心理療法士と心理学者が組んで描いている本です。  彼女達の作品が優れている点は心理療法の現場で子どもの心理について熟知している点、心理療法、心理学と長年向き合ってきた中で、心理学のよさも知りつつ、新たに出会った脳科学を心理学や心理療法の観点から、子育てや、心の傷を負う子ども、発達障害のある子どものケアにどう生かせるか、子どもというものを主眼に描いているところです。  

 

 

『パパは脳研究者』をはじめ、脳科学の研究者の本が描いた子育ての本はとても面白いのですが、脳科学だけで、子どもの発達を全て説明するのは今のところ不可能ではないかと思います。ですので脳科学と別の学問を組み合わせないと今のところ、親や保育関係者が実際に子育て、保育に生かせる程の知識を提供するのは難しいのではないかと思うのです。  

お隣のノルウェーは脳科学の本でヒットを飛ばしています。   

 

“Diving for Seahorses. A Book About Memory”

ナラティブの部分で紹介した本の中で一番この本が魅力があるのですが、その理由は恐らく共著者のHildeさんが小説家だからでしょう。

神経心理学者と小説家の姉妹が、記憶について描いた本です。私は小説的な語りにひかれて、こういう描き方、展開のさせ方があるのだな、と惹きつけられますが、脳研究の点で考えて、どの作品を紹介するべきなのかとても難しく、翻訳の合間にそれぞれの作品をめくってはまた別の本に立ち返り、うだうだしています。

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48.心がつながるのが怖い――愛と自己防衛

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『心がつながるのが怖い――愛と自己防衛』イルセ・サン作、枇谷 玲子訳、ディスカヴァー・トゥエンティワン発行、2017年9月14日発売

友だちになれない言い訳を探す

いつからだろう。出会う人と友だちになれない理由ばかり探すようになったのは。

●「あの人はあくまで仕事仲間。友だちとは違う」

●「年齢が離れているから、仲良くなれないや」

●「育った環境が違うから、どうせ分かり合えっこない」

●「ママ友は子どもを介した関係で、ただの知り合いだもの」

友だちになろうよ、って言えたらいいのに

最近デンマークのセラピー本『心がつながるのが怖い――愛と自己防衛』を訳した。作者は『鈍感な世界に生きる敏感な人たち』イルセ・サン。多くのブロガーさんたちがサイトに感想を描いてくださったり、声優の細谷佳正さんがラジオ番組天才軍師で本のことを語ってくださったりと、大きな反響を呼んだ。訳者として、この場を借りてお礼を申し上げたい。

【書影】鈍感な世界に生きる敏感な人たち_2017年新オビ (2)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ただ実は、ロシア人のデンマーク語翻訳者から、「イルセ・サンの『鈍感な世界に生きる敏感な人たち』も素晴らしい作品だけど、私は『心がつながるのが怖い――愛と自己防衛』の方がすごい作品だと思う。とってもいい作品だからぜひ読んでみて」と教えてもらっていた。

初めはその言葉をにわかには信じられなかった。『鈍感な世界に生きる敏感な人たち』が本当に優れた作品だったから。でも読んでみて、彼女の言葉の意味が分かった。

読みながら気づくと私は、わんわん泣いていた。自分の心にぽっかりと穴が空いていることに気付かされたのだ。

そうだ、私はいつも、

●私なんか誰にも愛されていないと感じたり、

自分には価値がないと感じたり、

●facebookやtwitterで友だちと近況を伝え合ってはいても、誰とも真につながれていないような寂しさを覚えたり

してきたのだった。

どうしたら良好で緊密な人間関係を築けるのだろう?

本には、

●私たちがどのようにして自分自身を守り、愛にストップをかける自己防衛の戦略をとるようになるのか

●それらの戦略が良好で親密な人間関係を築く妨げになるのは、どんな時か

●どのようにしたら不適切な戦略から脱却できるか

●どうやって自分自身の心に寄り添いながら、他者と近しい関係を築くことができるのか

が、作者のイルセ・サンが実際に行ってきたセラピーでのクライアントの事例を交えながら、書かれていた。

も本当は誰かとつながりたい友だちになろうよって、手を差し出したい。でも拒絶されるのが怖い

自己防衛の戦略

https://www.youtube.com/watch?v=2NK8LMMbUDc

作者がこの本で言及している自己防衛の戦略とは、他者または自身の内面、外界の現実に近づかないよう、私たちが意識的、もしくはしばしば無意識的にとる行動全般、また鈍感になろうとしたり、他者や自身の内面と距離をとったりする戦略を指している。フロイトやキルケゴール達もこの人間の心の動きを認識していた。

幼少期に自分を守るため必要だった戦略を大人になっても取り続ける

自己防衛の戦略は幼少期の早い段階でとられるようになることがほとんどだ。子どもは自分を守るため、愛されていないとはっきり認識するのを避ける。小さな子どもは自身の親が親としての能力に欠けていると認識することで、命が脅かされる恐怖を覚える。その恐怖から逃れるため、愛情に満ちた強い理想の両親像を心の内に創り上げてしまう子もいる。作者のイルセ・サンは、強すぎる感情と距離を置くのは、時に適切である、と述べている。

しかしこの戦略が習慣化し、大人になってからも、必要以上に自己防衛の戦略をとり続け、自己の内面と距離を置きすぎることで、他人に心を開き、愛情に満ちた関係を築くチャンスをも逃してしまう。また他人に心を開けないのは、自分の性格なんだ、自分は劣った人間なんだと考え、自分を責めてしまう。

親に叩かれて育った人は、他人から物のように扱われるのを許してしまいがち

イルセ・サンは愛する親に叩かれて育った子は、自分は価値のない人間なんだと感じ、叩かれた苦しみを忘れるため、現実とは違う理想化した両親像を思い描くことで自分を守ろうとする、と述べている。さらに子どもの時、物のように扱われた人は、大人になっても、他人からそのような扱いを受けるのを許してしまいがちだと言う。そして逆に自分自身もパートナーを物や道具のように扱ってしまうこともある。

心の傷がえぐられる

この本を読むことで私は心の奥にしまい、鍵をかけていた心の傷が再びえぐり出されるような感覚を覚えた。それはとても苦しく、辛い体験だった。1冊の本にこんなに感情を揺り動かされるなんて、不思議だ。実際、作者のセラピーを受けた人の中にも私のように泣きだし、感情を露わにする人がいたそうだ。

苛立ったり怒ったりしてばかりいる人の心には、悲しみや痛みが隠れている

すぐに苛立ったり、怒ってばかりいる人は、その胸に悲しみや痛みを抱えており、それらの感情を自覚するのを避けるため、苛立ったり、怒ったりしているのだ、とイルセ・サンは述べている。

他人を妬んだり、嫌ったりしてしまうのは愛情に飢えているから

他人を妬んだり、嫌ったりしてしまう人は、愛情に飢えている場合が多い。イルセ・サンは作品の中で読者に、そのような自己防衛の戦略をとってしまっていることを認識し、自身の悲しみや痛みを受け止め、感じることで、心が解き放たれ、愛情に満ちた人間関係を築くことができると優しくも力強く説いている。

いつも笑顔でいなくていい

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作者は正しくあらねばという強迫観念が強すぎると、常に笑っていなくてはならなくなる、と指摘した上で、表の顔を持つのは悪いことではない、と述べる。

問題は、その仮面をはずすタイミングが分からなくなったり、ごく近しい人の前でも仮面をとれなくなったりすることだ。

作者はいい人の仮面をはずし、相手と視線を合わせ、落ち着いて話すことで、心のつながりを感じられるようになる、と言う。私は私なんだ、と思うことで、相手にありのままの自分をさらせるようになる、と。

ありのままの自分でいる

自分らしくいようと選択するのは、自己の内面をありのままに受け入れこと。また人生には自分の力ではどうにもならないことがある、と認めることでもある。相手にありのままの自分を知ってもらい、受け止められることで、愛されていると感じることができるのだ、と作者は言う。

自分らしくいようと決めることで、心を開き、相手を受け入れ、他者に注意を向けことができるようになる。そうすることで愛情に満ちた人間関係が築けるようになるのだと、この本には書かれていた。

そばにおいでよ

私は誰かから差し出された手を、これまで何度、つかみそこねてきたのだろう? この本のデンマーク語のタイトルは”Kom nærmere”(もっとそばにおいでよ)。

そばにおいでよ」私も誰かにそう言えたらいい。