合同会社子ども時代のHPをオープンしました

 この度、ひとり出版社合同出版子ども時代のHPをオープンしました。

https://barndombooks.com/

https://barndombooks.com/2

https://barndombooks.com/2-1

 ぜひ覗いてみてくださいね。

 今後も翻訳者としての活動は続けます。請負の仕事については引き続き、こちらのページでお知らせいたしますのでどうぞよろしくお願いします。

73.地球で暮らすきみたちに知ってほしい50のこと、お薦めの問い

地球で暮らすきみたちに知ってほしい50のこと』で特に面白い問いとその答えを紹介させてください。

それは「人類の歴史で最も大きな発明は何?」という問いとその答えです。時計も地球も印刷機もインターネットも、どれも偉大な発明です。

答えはひとつではありませんが、著者のお気に入りの答えは 鏡です。

鏡もガラスもなかった時代は、水面などに自分の姿をちょっぴり映す時ぐらいしか、自分の姿を見る手段はありませんでした。鏡の登場により、どうしたら他の人より美しくなれるだろう? と他者と自分を比べるように。どうしたら成功できるだろう? など延々と考えるようになったと著者は書いています。


やがて人類は宇宙ロケットという新しい種類の『鏡』を手に入れました。

これにより人間は、地球全体を外から見られるようになりました。地球の美しさに人々はうっとりしました。

同時に人々は宇宙の中で地球はいかに小さく、いかに脆そうかをまざまざと見せつけられ、不安をもかき立てられました。

地球で暮らすきみたちに知ってほしい50のこと』どうぞよろしくお願いします!

73.地球で暮らすきみたちに知ってほしい50のこと

『地球で暮らすきみたちに知ってほしい50のこと』ラース・ヘンリク・オーゴード 著 枇谷玲子 訳 晶文社

(どんな本? この本との出会い)

デンマークのブックフェアにて。青い表紙の本が今回の作品の原書。赤い表紙がシリーズ2作目。

 本書『地球で暮らすぼくたちが知っておきたい50のこと  宇宙の誕生から社会と人生の問題まで』は、今のデンマークで最も読まれている子ども向けの科学ノンフィクションのひとつです。本作にはじまるシリーズは、2作目の『月は何でできているの?――博士への50の新たな質問』(2016年)(2017年オーラ賞ノミネート作)とあわせておよそ3万部(デンマークの人口はおよそ580万人なので、日本の人口に換算すると、60万部に相当)売れています。 

 

デンマークの児童書書店
デンマークの児童書書店にて。20018年に売れ筋だった児童ノンフィクション。右下の『どうして黒人と言ってはいけないの?』など
類書もあったが、今回の本が一番日本の読者に向いていると思い、訳すことにした。

 この本はデンマークの児童書書店やブックフェアでも大きく扱われていました。また2020年に2作の合本版『世界に存在する最も大きなものは何? ――博士への101の質問』までもが刊行されたことからも、この本がデンマークの子どもの疑問に答える科学書の定番書の地位を築いていることが分かります。

(ゆっくりと時間をかけて書かれた本)

著者

https://www.berlingske.dk/emne/lars-henrik-aagaard

 この本は元々はベアリングス紙という新聞社が出している子ども抜けの『キッズ・ニュース』の質問コーナー『博士に聞こう』で、著者であるジャーナリストのラース・ヘンリク・オーゴードが、子ども達から実際に寄せられた疑問に書いてきた答えをまとめたものです。つまり、新聞という大きな媒体でゆっくりと時間をかけて発表し、新聞の読者の反響を知った上で、単行本化に当たり、改めてそれらの質問を整理し、より分け、まとめ直したのが今回の作品です。じっくりと丁寧に時間をかけ練りに練って書かれているのが読み取れるのは、そのような成り立ちが背景となっています。

(デンマークの子ども観の変化――子どもがなぜ? と疑問を持つことが肯定されるように)

 突然ですが、ここで作者の出身国であるデンマークでとても有名な、『なぜなぜヨーアン』(原題Spørge Jørgen、Kamma Lautent作、Robert Storm Petersen絵、Gyldendal)という作品を紹介させてください。

 1944年に出版されたこの絵本で、主人公の男の子ヨーアンが、「どうして外を歩く時、帽子をかぶらなくてはならないの?」「どうして爪は指についているの? 鼻に爪がついていた方が面白いのに」「どうして豚はワンじゃなくて、ブーと鳴くの?」など、なんでもかんでも「なぜ? なぜ? どうして?」と質問をします。そんなヨーアンにお父さんは腹を立て、お尻を叩き、ベッドに放りこみます。ベッドの中からヨーアンは「どうして、遊んじゃいけないの?」「どうして僕のお尻はこんなに痛いの?」「もうふざけちゃいけないの?」と悲しい顔で聞き続け、物語は終わります。
 『なぜなぜヨーアン』が出版されてから70年以上たつ今のデンマークには、ヨーアンのように大人達が当たり前と思っている事柄に疑問を抱き、質問をし、探求する子どもを面倒と思う大人がいまだにいる一方で、「よく気付いたね」「疑問を持つことは素晴らしいことだよ」と褒める大人も多くいると本書についての新聞書評に書かれています。子ども達が抱く疑問の多くは、科学者をはじめ大人達も答えを探し続けている問いと一致していることが多くあるからだそうです。このようにデンマークの子ども観、科学教育のあり方は70年間で変わってきているようです。

(類書)

(子どもの疑問に答えるのは楽しい)

 訳者自身、子育てをする親ですが、子どもの疑問に答えるのは、子育ての面白さの1つだと常々感じています。子ども達が「なぜ、どうして?」と聞いてくる事柄には、よくよく考えると、自分自身もよく分かっていないことがたくさんあって、たくさんの気付きがあります。

(なぜ人は死ぬの?)
 今回の本の中で特に子育てをしていて子ども達からよく聞かれるのは、「なぜ人は死ぬの?」など生死に関する疑問です。私自身も子どもの時に夜寝る前に、いつか自分も死ぬんだと思って怖くなって眠れなくなったことがあるのを思い出しました。母にその質問をすると「もう遅いから早く寝なさい」と言われてしまったのですが、その話を北欧の人にすると決まって面白がられます。生死など根源的な疑問について大人と子どもが話すのは、今の北欧の人達にはごく当たり前のことで、いいから、そんなこと考えていないで寝なさいと大人が答えるのはすごく可笑しく思えるのだそうです。そういうことを子どもも一杯考えて、大人とも話し合うのがいいよね、と言われたこともあります。

(死についてもっと考えたい人にオススメ)

(生き延びるために人と生きることにしたオオカミ達)

 私がこの本に書かれている疑問と答えについて話をした時に、下の息子が興味を持ったのは、特に一部のオオカミが家畜化して犬になったという話です。その話を聞いて目を丸くする5歳の息子の表情が目に焼き付いて離れません。

(進化についてもっと知りたい人にオススメ)

(どうしたらお金持ちになれるの?)

 長女は今中学校2年生ですが、特にどうしたらお金持ちになれるの? など将来の進路に関わる疑問とその答えに関心を持っていました。

(月の満ち欠け)

また長女が小学生の時に、理科で習った月の満ち欠けについて質問された時に、当時まだ赤ん坊でいつもおんぶしていた息子の頭にランプの明かりが差していることに気付き、息子の頭を月、ランプを太陽に見立てて、ランプのまわりをくるくる息子とまわって、月の満ち欠けについて説明した時のことをよく覚えています(息子、ごめんね 笑)。

類書『月の満ちかけ絵本』(あすなろ書房)とってもすばらしい本です。月に子ども達はとても興味がありますね。
もともとオオカミだったとは思えない大人しさ。飼い犬のミライ。

(現地での評判)

 本作は、デンマークの新聞で、同国でも大変評判の高いアメリカの作品、『人類が知っていることすべての短い歴史』(ビル・ブライソン作、 楡井 浩一訳、NHK出版、2006年/新潮文庫、2014年)に通じる作品であり、同書と同じく、様々な科学的要素がばらばらになることなく、一本の糸でしっかりとつながっている、と評されています。

(対象年齢)

 デンマークの出版社が想定していた本書の主な読者は6~13歳ぐらいだったようですが、実際に出版してみると、子どもだけでなく、様々な世代に読まれているようです。また新聞の書評では、科学マニアや大人も時にうなるような意外性に満ちた鋭い答えが詰まっていると評されました。

(日本にゆかりのある著者――日本の震災、津波の報道も)

 著者のラース・ヘンリク・オーゴードは1961年デンマーク生まれで、オーフスのデンマークジャーナリスト大学でジャーナリズムを学び、卒業してすぐの1988年からベアリングス紙というデンマークの新聞社で文学(1990~96年)、文化(1998~2001年)関連の記事を担当。2002年からは気象や天候、自然災害や宇宙学を主な専門とする科学ジャーナリストとして社会面などで様々な記事を執筆。また毎週土曜に同紙で『科学』というコラム・コーナーを執筆。コラム『科学』は現在も続いていて、最近では日本におけるオリンピック開催について報じたりhttps://www.berlingske.dk/videnskab/nu-aabner-verdens-stoerste-og-mest-stille-show-endelig-under-farceagtige

『茶番劇のような状況で、世界で最も大きく、最も静かなショーがついに開幕』

コロナ関連の科学記事を書いたりしています。

https://www.berlingske.dk/videnskab/international-maskeekspert-med-opfordring-til-danmark-genindfoer

『国際的なマスクの専門家がデンマークに提唱:バスや電車、店など混雑する場所ではマスクをまたつけましょう』

https://www.berlingske.dk/videnskab/skal-jeg-lade-mit-barn-vaccinere-her-er-erfaringerne-fra-udlandet

『子どもにコロナワクチンを打たせるべき? 海外の事例』

 また過去のコラムでは、アイスランドの火山噴火や、

『最悪の場合、アイスランドの新たな火山噴火は100年続くかもしれない』

福島の地震・津波・復興、原発再稼働問題をはじめとする自然災害について、

『津波で消えた市の市長と話す』

気候変動について、

『氷河期には南極は実は言われているよりもずっと温かかった』
『35年間で最も寒い4月――その理由は』

エコ関連のコラムや、宇宙についてのコラム、社会や経済、人々の生活についてのコラムなども書いています。

 著者は2011年の日本の津波と原子力発電所や、同年のノルウェーのオスロとウトヤ島のテロに関する報道に対し、2012年ベアリングス紙ジャーナリスト賞を得ているのですが、日本の津波、原子力発電所について取材をしてきたことや、日本人の奥様と結婚されたことから、日本について造詣が深いようで、日本の子ども達により分かりやすく修正、改編をする際、機知に富んだアイディアとアドバイスをくださいました。また巻末では、日本に関する知識を生かし、日本の読者に向けたメッセージも執筆してくださりました。

(記者としての経験を生かす)

 本書の中で作者が宇宙をはじめ、一見すると私達の生活とは無縁で遠く思えるような事柄を、身近な生活、社会と上手に結びつけ、科学が私達の生活とどうつながっているのか示したり、私達が宇宙、自然により生かされているのだと実感を持てるような書き方をしたりできるのは、日々、新聞紙でたくさんの一般読者に向けた記事、コラムを書いているからなのかもしれません。これまで科学者や哲学者をはじめたくさんの大人達が向き合ってきた、大きくて根源的な疑問に、4ページ程度で答えていくのは至難の業に思えます。洗練された言葉と、難しい事柄を全ての人に分かるように整理し、論理を展開する力も記者の仕事を通して培われたものなのでしょう。

(著者のその他の著作)

 著者は『地球が荒れ狂う時――地震、津波、火山噴火、竜巻』(2006年)

『デンマークの荒天』(2011年)

『宇宙への旅――地震、火山、人間、気候、地球の誕生から滅亡まで君が知りたいこと全て』(2018年)


『月についての大きな本――月旅行、月についての事実、月についての発見、月の未来についての全て』(2019年)


『気候に詳しくなろう――気候変動について理解し、地球に優しい生活を送れるようになろう』(2019年)

をはじめ、子ども向けの科学ノンフィクションを多く出していて、作家としても定評があります。

今回の作品はそんな著者の代表作です。ぜひご覧ください。


 

OASISに寄稿

 港区立男女平等参画センターリーブラ発行の男女平等参画情報誌OASIS69号に寄稿しました。

 『物語から学び、考える「ジェンダー平等」のかたち』。書評家の倉本さおりさんが韓国をはじめとする国々の作品を、私は北欧の作品を紹介しています。

https://www.minatolibra.jp/news/%E7%94%B7%E5%A5%B3%E5%B9%B3%E7%AD%89%E5%8F%82%E7%94%BB%E6%83%85%E5%A0%B1%E8%AA%8C%E3%80%8C%EF%BD%8F%EF%BD%81%EF%BD%93%EF%BD%89%EF%BD%93-%E3%82%AA%E3%82%A2%E3%82%B7%E3%82%B9%E3%80%8D69%E5%8F%B7/

https://www.minatolibra.jp/wp-content/uploads/2021/07/69_oasis_small_1p.pdf


 貴重な機会を与えてくださったリーブラさんに感謝します。

文学フリマに出ます

明日文学フリマで、寄稿した本の店番のお手伝いをします。テ21、めずらしい生きものです。北欧フェミニズム入門も少し売ります。いらっしゃる方いたらよろしくお願いします。
#文フリ
#文学フリマreceived_314095090234990

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北欧会議文学賞か、北欧理事会文学賞か?

北欧会議、それとも北欧理事会?

北欧にはNordisk Råds Litteraturpris(The Nordic Council Literature Prize)という大きな文学賞があります。そちらについて、所属している北欧語書籍翻訳者の会のNOTEに書きました。スペースの都合上、そちらに詳しく書けなかったのですが、同賞を北欧会議文学賞と訳すべきか、北欧理事会文学賞と訳すべきか、ちょっと考えてみたいと思います。

Nordisk Råd(The Nordic Council)とはそもそも何?

 Nordisk Råd(The Nordic Council)という言葉は訳語が割れています。
たとえば平凡社の世界大百科事典で、北欧史の専門家である早稲田大学の村井誠人教授は北欧会議としています。
北欧会議
Nordisk Råd
1952年以来,デンマーク,アイスランド,ノルウェー,スウェーデンの各国議会および政府の代表により毎年定期的に開催されている評議機関(第1回は1953年),56年からフィンランドも参加し,アイスランドの6議席を例外にそれぞれ18議席を有し,さらに議決権のない各国政府代表をオブザーバーとして構成されている。ただし,69年の規約改正によって,デンマークのフェロー諸島,フィンランドのオーランド諸島の両自治領も議席を有し,さらにグリーンランドがデンマークで自治領化した(1979)のに伴い,議席をもった。しかし,デンマークおよびフィンランドの両本国代表の議席数が減じたので,当会議の総議席数に変化はない。北欧会議は当該2国間以上にかかわる問題を討議し,採択事項を各国政府あるいは北欧閣僚会議へ勧告する機能をもつ。各国政府はその決定に従う義務はもたないが,北欧共同労働市場,北欧諸国間旅券無審査制等に代表されるように,現実には多くの決定が実行に移され,北欧経済連合(NORDEK)案が70年に成立にいたらなかったなどの経済政策面を例外とすれば,北欧諸国間協力を考えるうえで社会・厚生・文化政策面での当会議の役割はきわめて大きい。なお,通常用いられる訳語中,〈北欧理事会〉はその実際的機能の内容から的確性を欠くきらいがある。

一方、日本大百科全書(ニッポニカ)の北欧文学の項で、東海大学の福井信子教授は北欧理事会としています。

Googleで検索すると北欧会議文学賞のヒットはわずか3件、北欧理事会文学賞のヒットは8,620件でした。
Google書籍検索のヒット数には差はほとんどありませんでした。

北欧理事会/会議文学賞とは何なのか?

 集英社世界文学大事典では、この賞について、次のように書かれています。

北欧会議文学賞
[デンマーク]Nordisk Råds Litteraturpris,
[スウェーデン]Nordiska rådets litteraturpris,
[フィンランド]Pohjoismaiden neuvoston kirjallisuuspalkinto,
[ノルウェー]Nordisk Råds litteraturpris,
[アイスランド]Bókmenntaverðlaun Norðurlandaráðs
北欧
デンマーク,フィンランド,アイスランド,ノルウェー,スウェーデンの北欧5カ国の文学作品を対象に毎年1名に授与される文学賞。1961年に北欧会議により,北欧諸国相互の文学と言語ならびに北欧文化一般に対する関心を高める目的で創設。翌62年の第1回受賞者はスウェーデンの作家エイヴィンド・ユーンソン。先述の5カ国からそれぞれ2名が選考委員となり,計10名よりなる選考委員会が毎年1月20日ごろにその年の受賞者を決定する。デンマーク,ノルウェー,スウェーデン文学の場合は過去2年間,そのほかの北欧諸国の場合は過去4年間に発表された文学作品が選考の対象となる。長編小説に限らず,短編集,詩集,エッセイ,戯曲と,文学性・芸術性の高い作品であれば各国の国内選考委員会が候補作品として推薦できる。1996年までの35年間にスウェーデンが13回,ノルウェーが6回,フィンランド,デンマーク,アイスランドがそれぞれ5回,北大西洋のデンマークの自治領フェロー諸島が2回受賞している。65年にはフェロー諸島のハイネセンとスウェーデンのウーロヴ・ラーゲルクランツが異例の2名同時受賞を果たした。受賞作は必ずしも受賞者の代表作ではないが,いずれも極めて質の高い作品が選ばれているのは否めない。受賞作品はほぼ自動的にほかの北欧諸語に翻訳・出版されるため,北欧圏内での普及は保証されているが,今後は地域性に固執せず,もっと国際性を指向すべきであろう。

執筆者であるデンマーク文学者の橘要一郎さんも、北欧理事会でなく、北欧会議という訳語を使っています。どちらがよいか結局結論は出ないのでした。

 この記事を読んでいる北欧語の専門家で、訳語について、ご意見ある方がいたら、ご連絡いただけると、とても嬉しいです。

 

エトセトラブックスに寄稿

フェミニズム専門出版社エトセトラブックスに寄稿しました。

大好きなトーヴェ・ディトレウセンについて書いています。エトセトラブックスさん、ありがとうございました!

No.6「億万長者と結婚するか、50歳になってから子どもを産めない限り、女性が作家としてものを書くのは難しい」――デンマークの作家、トーヴェ・ディトレウセン(枇谷玲子)

 

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71.北欧式パートナーシップのすすめ 愛すること、愛されること

北欧式パートナーシップのすすめ 愛すること、愛されること』ビョルク・マテアスダッテル作、枇谷玲子訳、2021年3月発行、原書房

 

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(上の動画リンク https://www.youtube.com/watch?v=6s2UH69tkPE

(本書Facebookページ https://www.facebook.com/aaelskeogblielsketjapansk/

(本書Note https://note.com/reikohidani/m/m952d47b6d836

本作、『北欧式パートナーシップのすすめ 愛すること、愛されること』は2017年にÅ
elske og bli elsket―Hvordan ta vare på kjærligheten?(愛すること、愛されること――どうしたら愛を大切にできるの?)というタイトルでノルウェーで出版された本の邦訳です。ノルウェーで一番人気の夫婦カウンセラーの1人であるビョルク・マテアスダッテルが、世界の様々な脳科学や心理学の研究などを織り交ぜながら、企業、組織、図書館、文化会館、文化フェスティバルや結婚式の前夜祭、成人教育機関などで20年以上行ってきたカウンセリング、夫婦生活/恋人講座を読者に疑似体験させられるよう描いた渾身の1冊です。

本作は2017年ノルウェー文学普及団体(NORLA)夏の推薦図書にも選ばれています。

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作者のビョルク・マテアスダッテルは1964年生まれ。2013年からダーグブラーデ紙の週末別冊版ダーグブラーデ・マガシンで、月に1度、コラムを執筆。

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また夫婦生活/恋人講座の様子は、テレビのドキュメンタリー番組でも取り上げられました。

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(上のスクリーンショットは講座で夫婦喧嘩の例を示す2人。「あなたのそういうところ、お義父さんそっくりよ!」と罵倒する様をユーモアたっぷりに演じる作者) 

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本書には、共働きが当たり前のノルウェーで、どうしたら夫婦が互いをいたわり、愛情を示し合えるか? どんな言葉が誤解やネガティブな感情、喧嘩を生むのか? 良好なパートナーシップを築くコツ、家事分担を円滑に行うため、パートナーにどんな声かけをしたらよいか? など、すぐに実践できそうな具体的なノウハウが満載です。

共働きが当たり前と書きましたが、ノルウェーの統計局が2011年に発表した記事によると、ノルウェーの既婚/事実婚状態にある女性(25~59歳)のうち、労働時間が週に20時間以下の人、または主婦である人は10人に1人しかいないそうです。本作中で例として出てくるイプセンの有名な戯曲『人形の家』(1879年)の主人公ノラのように、かつてはノルウェーでも女性が家を守り、男性が外でお金を稼ぐものと思われていました。しかし1960年代前後から社会制度が整備されたり、女性解放運動が盛んに行われたり、1978 年のジェンダー平等法が制定されたり、1993年、育児休業の一部を父親に割り当てるパパ・クオータ制が導入されたりしたことで、女性の労働参加が急速に進みました。ノルウェーの男女平等政策の歴史的変遷についてより詳しく知りたい方は、『ノルウェーを変えた髭のノラ―男女平等社会はこうしてできた―』(三井マリ子・著/明石書店/2010年)などに書かれているのでぜひご覧ください。



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この本の中で、昔は一方が『王様』または『女王様』で、もう一方が、尊敬する人に運よく仕えることのできた家来であるかのように振る舞うカップルもいたと書かれています。ノルウェーでも今でもそういうカップルはもちろんいるものの、減ってきているそうです。対等であればあるほど、人間関係の質は高まり、長続きするようになると著者は言います。ただし対等というのは、同じだけ稼いでいるといった意味ではなくて、一方ばかりが、相手を尊重するのでなく、互いを同じだけ尊重することだと説きます。

 「第12章 ずっと恋人」の「熟慮する」に出てくる、家事をしてくれた夫に、ありがとうと言うべきか? という女性からの質問に対する作者の答えは、特に秀逸でした。作者はこう答えたのです。ありがとうと言うことで、パートナーに、あなたのことを見ているよ、ともに日常生活を過ごしてくれてありがとう、と示すことができるのだと。

この本を訳していて、一番迷ったのは、日本では夫婦、妻、夫、などと表現されがちな言葉
を、どう訳すかでした。ノルウェーでは、同棲事実婚のカップル(サンボと呼ばれていま
す)も、婚姻関係にある夫婦と同じく一般的で社会的に認められていて、様々な社会的権利が保証されています。また同性同士の結婚が2009年に認められています。作者は交際期間の長さ
や、同居しているか、籍を入れているかは関係なく、カップルのことを『恋人』と表現するそうで、邦訳でもできるだけ、この恋人という言葉を使うよう心がけました。普段私は日本で暮らしていて、夫婦という言葉をよく使うので、初めは少し違和感がありましたが、段々とこの恋人という言葉が好きになってきました。作者はノルウェー語の《kjæreste》(恋人)という言葉の頭につく《kjær》は「愛しい」「かけがえのない」という意味で、《kjæreste》(恋人)は、この《kjær》の最上級、つまり「最も愛しくかけがえのない人」という意味なのだと書いています。この本には、最も愛しく、かけがえのない恋人をどう大切にし、愛することができるかが示されています。本書の邦題で使われているパートナーシップという言葉も、夫婦生活、夫婦関係などといった言葉より、ずっと本書に合っているように思えます。作者の意図をくみ取り、パートナーシップという言葉を使おうと考えてくださった原書房の善元温子さんにこの場を借りて改めて感謝いたします。

作者は「第7章 喧嘩と傷ついた心」の「コミュニケーションの4つの落とし穴」の中で、あ
まりに多くの人たちが、パートナー/恋人を、足蹴にするかのように、間違いを指摘したり、低く評価したりする人が多過ぎると言います。日本でもパートナーのことを『愚妻』などと表現する人がいる/いたように思えます。作者は、多くの人が、愛する人にするべきことと全く逆のことをしていると説きます。そして誰かの足を踏んだら、大半の人はすぐに謝るものなのに、心を踏みつけてしまった場合には、大半の人たちは残念ながらそれとは真逆の戦略をとって、「それぐらいで目くじら立てるなよ!」「ただの冗談だろう」「俺はそういう人間なんだ」「正直であるのが一番よ」などと、傷ついたのは傷ついた人の責任であるかのような物言いをしますが、作者はそのような考えに大反対だと言います。

 

この本の中で訳者にとって特に印象深かったのは、「第11章 愛の時間」に書かれていた、携帯電話の使用についての記述です。昔から今に集中することは、人間にとっての難題だったようですが、携帯電話が一般にまで普及した現代では、それがさらに難しくなってきているようです。家族で一緒にいるのに、携帯電話の世界に夢中になる現代人の実態と、そのことが人間関係に及ぼす弊害が、携帯電話の使用についての様々な科学研究も交えながら、記されています。家族とくつろいでいる時や夕飯中に携帯電話の通知音が鳴った時、つい仕事のメールではないかとチェックしてしまったりする訳者には、身に覚えのあることが多く、ドキリとさせられました。この章では、以下のような携帯電話の使用にまつわる研究が示されていてとても説得力があります。

 

●バージニア工科大学の研究により、話をしている時に、テーブルの上に携帯電話が置かれている場合、携帯電話が視界に入っていない場合と比べ、会話の満足度が下がることが分かった。

●テキサス州のベイラー大学の研究により、70パーセントの人が携帯電話の使いすぎにより、恋人から邪険にされていると感じていると分かった。

●ノルウェー経済大学が行った調査で、ノルウェーの人たちが携帯電話を6分に1度チェックしていることが分かった。

作者はこの章で、携帯電話の向こう側の世界ではなく、目の前にいる大切な人に意識を向ける
ため、簡単に実践できる具体的な施策を示してくれています。

 「第9章 日々の愛と家族生活」の「お金か生活か!」では、様々な研究データを示しながら、共働き世帯の家計管理について赤裸々に書かれていて興味深いです。ノルウェーでは近年、財布を一にする夫婦が減ってきているそうです。パートナーの一方が1人で家を所有し、もう一方が家賃を払うカップルも珍しくないそうです。ですが作者は財布を一にすることで、連帯感が増すと言います。そして一方が一家の家計を主に支えていようと、家事を主に担っていようと、自分の方が相手よりも偉いと考えないようにしようと呼びかけます。互いを対等に扱い、パートナーを尊敬していること、信頼しているということを、家計を一にしお金を共有することで示すことができると。

また「第9章 日々の愛と家族生活」の中の「たかが食事、されど食事」では、食事を一緒にとることで、家族の連帯感が増すことが、様々な研究結果を示しながら説かれていました。ど
の研究も興味深かったのですが、特にマリ・レゲ教授とアリエル・カリ教授により行われたノルウェーとカナダの共同研究で、父親が家族と食事を一緒にとる時間数が全体平均より
15分多い家庭の離婚率は、食事時間が全体平均より15分少ない家庭に比べ、30
パーセントも低いことが分かったというところは、身につまされました。このようにノルウェーでは、男性の家事・育児参加について様々な研究が行われているようです。

同じく第9章の中の、ジェットコースターみたいな日々では、私たちはタスクや仕事に実際に
かかる時間を平均40パーセント少なく見積もりがちであるということを示すペンシルベニア大学のギャル・サウバーマン教授らによる研究も出てきました。

第9章中の「日々、恋人」では、恋人らしくいるために、ベビーシッターにわざわざ子どもを
預けてデートに行く必要はないと作者は言います。また第5章「愛の言葉と感情」の中で作者は、ジムで体をしぼったり、身だしなみを整えるよりも、窓を拭いているところや、床掃除をしているところ、子どもと遊んでいるところ、ドアのノブを修理しているところを見て、魅力を感じる人も多いとしています。作者は「妻と夫でなく、恋人になろう!」と読者に繰り返し呼びかけます。

「第5章 愛の言葉と感情」で人はポジティブな感情よりも、ネガティブな感情にずっと影響
されやすいもので、カップルが良好な関係を保つには、ネガティブな感情を1個抱いたら、ポジ
ティブな感情を最低でも5つ、抱く必要があると書かれていました。これまで訳者である私の心
も、主に家事・育児の分担について、夫に対するネガティブな感情で占められていました。ですが、3カ月間、毎日、作者の言葉を訳しているうちに、私の心は感謝の気持ちで満たされていきました。著者のビョルクさんのおかげで、夫が―こう書くのは、まだちょっと照れくさいのですが、私の恋人が―そばにいてくれるのが当たり前なんかじゃないのだと、再認識することができました。ビョルクさんの言葉が私に、出会った時からずっと、翻訳家になる夢を応援し続け、また一緒に子どもを育ててきてくれた夫の献身と愛を気付かせてくれたのです。夫からもこの本を訳し出してから、イライラしていることが減って、優しくなったね、と言われます。私がこの本を訳していて感じることができた、幸せでぽかぽかした気持ちを、読者の皆さんにも味わってもらえるよう、心を込めて訳しました。ビョルクさんの『恋人講座』をどうか皆さん、お楽しみください。

出版社サイト

 

(作者自己紹介動画)

https://www.youtube.com/watch?v=2wnKAcvoEKs

 

samazama
はじめまして。ビョルク・マテアスダッテルです。
 私はノルウェーの作家で、カップル・セラピストです。
 愛を大切にしたいと願うカップルのお手伝いを20年近くしてきました。
 この度出版される『北欧式パートナーシップのすすめ』には、愛に満ちた生活を送るために最も大切な事柄について存分に書きました。
様々な研究結果、セラピーで出会ったカップルの話、30年間の私と夫の愛の生活での体験談がつまっています。
 この本が日本で出版されると聞き、喜びと感謝の思いで一杯です。
 人生で最も大切なものーーつまり愛を慈しむ術を身につけるお手伝いができたらと願っています。

 私達には皆、愛し、愛される人が必要なのですから。

(Facebookページ https://www.facebook.com/aaelskeogblielsketjapansk/

(Note https://note.com/reikohidani/m/m952d47b6d836