Reiko Hidani HP

73.地球で暮らすきみたちに知ってほしい50のこと

『地球で暮らすきみたちに知ってほしい50のこと』ラース・ヘンリク・オーゴード 著 枇谷玲子 訳 晶文社

(どんな本? この本との出会い)

デンマークのブックフェアにて。青い表紙の本が今回の作品の原書。赤い表紙がシリーズ2作目。

 本書『地球で暮らすぼくたちが知っておきたい50のこと  宇宙の誕生から社会と人生の問題まで』は、今のデンマークで最も読まれている子ども向けの科学ノンフィクションのひとつです。本作にはじまるシリーズは、2作目の『月は何でできているの?――博士への50の新たな質問』(2016年)(2017年オーラ賞ノミネート作)とあわせておよそ3万部(デンマークの人口はおよそ580万人なので、日本の人口に換算すると、60万部に相当)売れています。 

 

デンマークの児童書書店
デンマークの児童書書店にて。20018年に売れ筋だった児童ノンフィクション。右下の『どうして黒人と言ってはいけないの?』など
類書もあったが、今回の本が一番日本の読者に向いていると思い、訳すことにした。

 この本はデンマークの児童書書店やブックフェアでも大きく扱われていました。また2020年に2作の合本版『世界に存在する最も大きなものは何? ――博士への101の質問』までもが刊行されたことからも、この本がデンマークの子どもの疑問に答える科学書の定番書の地位を築いていることが分かります。

(ゆっくりと時間をかけて書かれた本)

著者

https://www.berlingske.dk/emne/lars-henrik-aagaard

 この本は元々はベアリングス紙という新聞社が出している子ども抜けの『キッズ・ニュース』の質問コーナー『博士に聞こう』で、著者であるジャーナリストのラース・ヘンリク・オーゴードが、子ども達から実際に寄せられた疑問に書いてきた答えをまとめたものです。つまり、新聞という大きな媒体でゆっくりと時間をかけて発表し、新聞の読者の反響を知った上で、単行本化に当たり、改めてそれらの質問を整理し、より分け、まとめ直したのが今回の作品です。じっくりと丁寧に時間をかけ練りに練って書かれているのが読み取れるのは、そのような成り立ちが背景となっています。

(デンマークの子ども観の変化――子どもがなぜ? と疑問を持つことが肯定されるように)

 突然ですが、ここで作者の出身国であるデンマークでとても有名な、『なぜなぜヨーアン』(原題Spørge Jørgen、Kamma Lautent作、Robert Storm Petersen絵、Gyldendal)という作品を紹介させてください。

 1944年に出版されたこの絵本で、主人公の男の子ヨーアンが、「どうして外を歩く時、帽子をかぶらなくてはならないの?」「どうして爪は指についているの? 鼻に爪がついていた方が面白いのに」「どうして豚はワンじゃなくて、ブーと鳴くの?」など、なんでもかんでも「なぜ? なぜ? どうして?」と質問をします。そんなヨーアンにお父さんは腹を立て、お尻を叩き、ベッドに放りこみます。ベッドの中からヨーアンは「どうして、遊んじゃいけないの?」「どうして僕のお尻はこんなに痛いの?」「もうふざけちゃいけないの?」と悲しい顔で聞き続け、物語は終わります。
 『なぜなぜヨーアン』が出版されてから70年以上たつ今のデンマークには、ヨーアンのように大人達が当たり前と思っている事柄に疑問を抱き、質問をし、探求する子どもを面倒と思う大人がいまだにいる一方で、「よく気付いたね」「疑問を持つことは素晴らしいことだよ」と褒める大人も多くいると本書についての新聞書評に書かれています。子ども達が抱く疑問の多くは、科学者をはじめ大人達も答えを探し続けている問いと一致していることが多くあるからだそうです。このようにデンマークの子ども観、科学教育のあり方は70年間で変わってきているようです。

(類書)

(子どもの疑問に答えるのは楽しい)

 訳者自身、子育てをする親ですが、子どもの疑問に答えるのは、子育ての面白さの1つだと常々感じています。子ども達が「なぜ、どうして?」と聞いてくる事柄には、よくよく考えると、自分自身もよく分かっていないことがたくさんあって、たくさんの気付きがあります。

(なぜ人は死ぬの?)
 今回の本の中で特に子育てをしていて子ども達からよく聞かれるのは、「なぜ人は死ぬの?」など生死に関する疑問です。私自身も子どもの時に夜寝る前に、いつか自分も死ぬんだと思って怖くなって眠れなくなったことがあるのを思い出しました。母にその質問をすると「もう遅いから早く寝なさい」と言われてしまったのですが、その話を北欧の人にすると決まって面白がられます。生死など根源的な疑問について大人と子どもが話すのは、今の北欧の人達にはごく当たり前のことで、いいから、そんなこと考えていないで寝なさいと大人が答えるのはすごく可笑しく思えるのだそうです。そういうことを子どもも一杯考えて、大人とも話し合うのがいいよね、と言われたこともあります。

(死についてもっと考えたい人にオススメ)

(生き延びるために人と生きることにしたオオカミ達)

 私がこの本に書かれている疑問と答えについて話をした時に、下の息子が興味を持ったのは、特に一部のオオカミが家畜化して犬になったという話です。その話を聞いて目を丸くする5歳の息子の表情が目に焼き付いて離れません。

(進化についてもっと知りたい人にオススメ)

(どうしたらお金持ちになれるの?)

 長女は今中学校2年生ですが、特にどうしたらお金持ちになれるの? など将来の進路に関わる疑問とその答えに関心を持っていました。

(月の満ち欠け)

また長女が小学生の時に、理科で習った月の満ち欠けについて質問された時に、当時まだ赤ん坊でいつもおんぶしていた息子の頭にランプの明かりが差していることに気付き、息子の頭を月、ランプを太陽に見立てて、ランプのまわりをくるくる息子とまわって、月の満ち欠けについて説明した時のことをよく覚えています(息子、ごめんね 笑)。

類書『月の満ちかけ絵本』(あすなろ書房)とってもすばらしい本です。月に子ども達はとても興味がありますね。
もともとオオカミだったとは思えない大人しさ。飼い犬のミライ。

(現地での評判)

 本作は、デンマークの新聞で、同国でも大変評判の高いアメリカの作品、『人類が知っていることすべての短い歴史』(ビル・ブライソン作、 楡井 浩一訳、NHK出版、2006年/新潮文庫、2014年)に通じる作品であり、同書と同じく、様々な科学的要素がばらばらになることなく、一本の糸でしっかりとつながっている、と評されています。

(対象年齢)

 デンマークの出版社が想定していた本書の主な読者は6~13歳ぐらいだったようですが、実際に出版してみると、子どもだけでなく、様々な世代に読まれているようです。また新聞の書評では、科学マニアや大人も時にうなるような意外性に満ちた鋭い答えが詰まっていると評されました。

(日本にゆかりのある著者――日本の震災、津波の報道も)

 著者のラース・ヘンリク・オーゴードは1961年デンマーク生まれで、オーフスのデンマークジャーナリスト大学でジャーナリズムを学び、卒業してすぐの1988年からベアリングス紙というデンマークの新聞社で文学(1990~96年)、文化(1998~2001年)関連の記事を担当。2002年からは気象や天候、自然災害や宇宙学を主な専門とする科学ジャーナリストとして社会面などで様々な記事を執筆。また毎週土曜に同紙で『科学』というコラム・コーナーを執筆。コラム『科学』は現在も続いていて、最近では日本におけるオリンピック開催について報じたりhttps://www.berlingske.dk/videnskab/nu-aabner-verdens-stoerste-og-mest-stille-show-endelig-under-farceagtige

『茶番劇のような状況で、世界で最も大きく、最も静かなショーがついに開幕』

コロナ関連の科学記事を書いたりしています。

https://www.berlingske.dk/videnskab/international-maskeekspert-med-opfordring-til-danmark-genindfoer

『国際的なマスクの専門家がデンマークに提唱:バスや電車、店など混雑する場所ではマスクをまたつけましょう』

https://www.berlingske.dk/videnskab/skal-jeg-lade-mit-barn-vaccinere-her-er-erfaringerne-fra-udlandet

『子どもにコロナワクチンを打たせるべき? 海外の事例』

 また過去のコラムでは、アイスランドの火山噴火や、

『最悪の場合、アイスランドの新たな火山噴火は100年続くかもしれない』

福島の地震・津波・復興、原発再稼働問題をはじめとする自然災害について、

『津波で消えた市の市長と話す』

気候変動について、

『氷河期には南極は実は言われているよりもずっと温かかった』
『35年間で最も寒い4月――その理由は』

エコ関連のコラムや、宇宙についてのコラム、社会や経済、人々の生活についてのコラムなども書いています。

 著者は2011年の日本の津波と原子力発電所や、同年のノルウェーのオスロとウトヤ島のテロに関する報道に対し、2012年ベアリングス紙ジャーナリスト賞を得ているのですが、日本の津波、原子力発電所について取材をしてきたことや、日本人の奥様と結婚されたことから、日本について造詣が深いようで、日本の子ども達により分かりやすく修正、改編をする際、機知に富んだアイディアとアドバイスをくださいました。また巻末では、日本に関する知識を生かし、日本の読者に向けたメッセージも執筆してくださりました。

(記者としての経験を生かす)

 本書の中で作者が宇宙をはじめ、一見すると私達の生活とは無縁で遠く思えるような事柄を、身近な生活、社会と上手に結びつけ、科学が私達の生活とどうつながっているのか示したり、私達が宇宙、自然により生かされているのだと実感を持てるような書き方をしたりできるのは、日々、新聞紙でたくさんの一般読者に向けた記事、コラムを書いているからなのかもしれません。これまで科学者や哲学者をはじめたくさんの大人達が向き合ってきた、大きくて根源的な疑問に、4ページ程度で答えていくのは至難の業に思えます。洗練された言葉と、難しい事柄を全ての人に分かるように整理し、論理を展開する力も記者の仕事を通して培われたものなのでしょう。

(著者のその他の著作)

 著者は『地球が荒れ狂う時――地震、津波、火山噴火、竜巻』(2006年)

『デンマークの荒天』(2011年)

『宇宙への旅――地震、火山、人間、気候、地球の誕生から滅亡まで君が知りたいこと全て』(2018年)


『月についての大きな本――月旅行、月についての事実、月についての発見、月の未来についての全て』(2019年)


『気候に詳しくなろう――気候変動について理解し、地球に優しい生活を送れるようになろう』(2019年)

をはじめ、子ども向けの科学ノンフィクションを多く出していて、作家としても定評があります。

今回の作品はそんな著者の代表作です。ぜひご覧ください。


 

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