NORLA今月の翻訳者、日本語版 #国際女性デー

NORLAの今月の翻訳者のコーナーに寄稿しました。
https://norla.no/nb/nyheter/nyheter-fra-norla/reiko-hidani-manedens-oversetter-i-mars

 

(日本語訳)

枇谷 玲子 – 3月の翻訳者

あなたはどんな風にしてノルウェー語の翻訳者になったのですか?

 

私は高校生の時にデンマークの作家グレーテリーセ・ホルムの『マリアからの手紙』を読み、移民問題など政治について学校で議論する先生と子ども達の姿に衝撃を受け、北欧に強い関心を持ちました。学校図書館の司書の先生に相談して徳間書店に手紙を書いたところ、編集者の上村令さんが手紙を翻訳者に転送してくださり、お返事をいただきました。

高校卒業後、大阪外国語大学でデンマーク語とデンマーク文学を学びました。1年間デンマークに留学した後、講師をしていた翻訳家の木村由利子先生に出版社を紹介していただき、留学中、デンマークの児童文学センターのTorben Weinreich先生から勧められた『ウッラの小さな抵抗』を文研出版から初の訳書として出すことができました。

正直に言うと、元々はノルウェーは私にとって、デンマークのお隣の国でしかありませんでした。当時私はハウゲンやリウ・フローデ、ゴルデルの本を読んだり、大学でムンクについてレポートを書いたりしたことぐらいしかなかったのですから。

Aschehoug Aschehoug社のChristian KjelstrupとEva Christine Kuløyと玲子の娘。

ノルウェーに対する見方が変わったのは、NORLAと出会ってからです。2010年にNORLAから旅費助成をいただき、GyldendalやAschehoug、ノルウェー児童書センター、ホロコースト・センター、IBBY Documentation Centerに行きました。全てのミーティングをアレンジしてくれたのは、NORLAでした。彼達はとても親切でした。調査旅行から帰ってきてから、『キュッパのはくぶつかん』『キュッパのおんがくかい』を訳す機会を得ることができました。絵本シリーズは日本で成功し、そのおかげで2014年にHolmenで行われた国際翻訳者会議に出席できました。私がノルウェー文学に夢中になりだしたのは、その会議からでした。会議の後も、NORLAは日本に何度も来てノルウェー文学セミナーを複数回行いました。NORLAに会う度、私はノルウェー文学に夢中になっていきました。私は今ではノルウェーの文学をほぼ毎日読んでいます。ノルウェー文学は今では私にとってなくてはならない存在です。

Kubbegren

2015年、東京都美術館が行ったワークショップ『キュッパになろう』。ワークショップは日比谷公園で行われた環境フェスティバル、緑の感謝祭のイベントの1つとして行われました。

最近行ったセミナーについて教えてくれますか?

 

私は以前、英語の翻訳者向けのネット上のクラブに入っていたことがあり、そこで英語の翻訳者さん達が英語圏の児童書について話して盛り上がっているのを見て、うらやましく思ってきました。また日本で北欧語の翻訳者が足りないから、英語やドイツ語から重訳するのは仕方ないと言われている割に、実は北欧語から直接訳してみたい、翻訳の仕事をしてみたいと私のHPに相談をしてくる人が何人かいて、こんなに直接訳できる人がいるのなあ、と不思議に思ってきました。でも重訳について文句を言ってもはじまりません。私がやるべきことは翻訳技術を磨くことでした。

そこで以前から会ったことがあった久山葉子さんや ヘレンハルメ美穂さんや他の翻訳者に声をかけ、北欧語書籍翻訳者の会を昨年の秋にはじめました。

(会のFacebook).

会をはじめた直後に、 Norlaが日本にまた来ました. NORLAはノルウェー語の翻訳者に本のプレゼンテーションをする機会を与えてくれました。大使館で私は、中村冬美さんとNORLAを訪問した時に紹介された、アニータ・コースの『お母さんは謎』という作品のプレゼンテーションをしました。

Norlanakamura
NORLAのアドバイザー、 Oliver Møystad とPer Øystein Roland

 

それに来ていた編集者さんから、後から、他の出版社さんでセミナーに呼ばれなかったのを残念に思っている編集者がいるので、同じようなプレゼン会をやってみないかと誘われました。そこで北欧語書籍翻訳者の会の皆さんを誘って、1月の終わりに早川書房の編集者さんを講師に迎え、レジュメ勉強会を行いました。青土社の編集者さんもアドバイスをくださいました。

Kubokisan

早川書房の窪木竜也さんと翻訳者の中村冬美さん

2月1日には出版クラブという施設でプレゼン会をし、北欧の書籍を出版社さんに紹介しました。私は Bjørk Matheasdatterの『愛すること、愛されること』(Å elske og bli elsket)を、中村冬美さんは『海馬を求めて』を紹介しました。また羽根由さんは『姉妹』を展示しました。

他に紹介したノルウェーの本は以下です。

ほとんど人間:チンパンジーのユリウスについての伝記』(Nesten menneske. Biografien om Julius )Alfred Fidjestøl作

動物を理解する』(Å forstå dyr)  Lars Fr. H. Svendsen作

『雪の少女――クリスマスのお話』

『世界劇場――地図の歴史』

『本を救いたかった女の子』

『ピケティ、1、2、3』

『カガヤキ谷のトーニェ』(Tonje Glimmerdal) Maria Parr 作

『誰にだって背中がある』(Alle har en bakside) Anna Fiske作

セミナーの写真はここでさらにたくさん見られます。

また2月3日にはひるねこBOOKSという書店で読者むけのイベントも行いました。そこで北欧ミステリファンの存在を知ったので、もし可能なら、いつかミステリを入り口に他のジャンルにも興味を持ってもらえるような会を開きたいです。日本ではStieg Larsson、Henning Mankell、Anders Roslund & Stefan Thunberg 、Leif G.W. Perssonなどのミステリ作家が人気です。私もアンネ・ホルトやエーネ・リールの作品を訳しました…。

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アンネ・ホルトの『ホテル1222』の舞台

現在はSELTAが発行しているような書評集を作成しようと皆で準備中です。

 

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   中村冬美さんの発表

あなたは児童書の翻訳を精力的に行っていますね。北欧の児童書と日本の児童書の違いは何ですか?

 

YAは日本ではあまり定着しきっていないジャンルです。私自身、高校生や大学生の時に特に本を多く読むようになりましたが、その1990年代ぐらいに、金原瑞人さんという方が盛んに英米のYAを日本に紹介していました。私がもっと幼い頃は、YAというジャンル名はほとんど聞いたことがありませんでした。私は自分が高校生、大学生の頃に読んできたような本を主に訳したいと考えています。その頃、私が読んできた本には『マリアからの手紙』のような海外のYAもあれば、村上春樹や吉元ばなな、江國香織といった思春期の子、高校生、大学生が主人公だけれど、大人の文学と日本ではカテゴライズされている作品もありました。日本では海外のYAは『ワンダー』などを除いてはほとんどベストセラーにならないので、YAの翻訳の仕事はなかなか得られず、YAの翻訳をしたくて初期は児童書の出版社によく持ち込みをしていたのですが、YAはボツばかりで、絵本ならすでにフランクフルトやボローニャ、サブ・エージェントの紹介で出版社が権利を買っている作品があったので、じゃあ絵本の翻訳をやってみないかと誘われて絵本の翻訳を手がけてきましたが、今でもYAや高校生、大学生を主人公にした日本では大人の文学とカテゴライズされているような作品を訳してみたいという気持ちでいます。

 

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シモン・ストランゲル『このTシャツは児童労働で作られました。』

ただ例えば、シモン・ストランゲルの『このTシャツは児童労働で作られました。』は日本でも人気になりましたが、これは高校生だけでなく大人にも読まれています。シモン・ストランゲルの『ドコカ行き難民ボート』にはじまる3部作は難民問題、児童労働など極めて政治的なテーマを扱った本です。子ども達が政治的なメッセージを世の中に投げかけるというのは日本の読者にはなじみがなく、しかしだからこそこの本が日本で歓迎されたのだと思います。日本の学校では、政治について議論することに教師は戸惑います。政治について授業で扱ってどうやって政治的中立を保てるのか分からないという教師もいるようです。民主主義教育が北欧では進んでいて、そのことが色濃く出た北欧の作品は日本人には前衛的にまた刺激的に映るのかもしれません。

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『北欧式お金と経済がわかる本』は日本の書店では大人向けの経済書の棚に置かれています。

 

『北欧式お金と経済について学ぶ本』は子ども向けの本としてノルウェーでは出されたようですが、実際この本は書店の児童書コーナーではなく、大人向けの経済書のコーナーにありました。『北欧式お金と経済について学ぶ本』はお母さんが子どもに経済について、働くことについて教える本ですが、日本で出されている金銭教育の本の多くはお父さんや男の人が子どもにお金について教えるものばかりです。私がこの本を訳したのは母親も働いてお金を稼ぐんだってことを子どもに示したかったからです。私はこの本でお母さんだって失業すると悲しくなる。仕事はお母さんの人生の一部なのだからと書かれているのを読み、感動しました。

北欧の児童書のキーワードの1つは多様性です。

日本では読みものでは松谷みよこさんの『モモちゃんとアカネちゃん』などがありますが、小さい子向けの絵本ではほぼ常にお父さん、お母さん、子どもという家庭が描かれているものが多いのに対し、北欧の絵本ではお母さんと子ども、お父さんと子どもだけの家庭も当たり前のように登場します。日本でも離婚率が高まってきているのですから、伝統的な家族観に縛られた絵本の作り方はやめるべきだと私は考えています。『Z棟のアウロラ』をはじめ多様な家族が描かれた作品が北欧には多いのではないでしょうか。絵本の中で多様な家族を描かないことで、私達大人はシングルマザー、シングルファザーの家庭に育つ子ども達にあなた達の家は普通ではないんだというメッセージを無意識のうちに投げかけてはいないか、考える必要があります。実際、日本の母親が子どもにシングルマザーの家のことを、非難したり特別視するような発言をしているのを私は複数回目撃したことがあります。子どもにも親にも、多様な家族のあり方を尊重するよう啓蒙が必要です。北欧の本はその一翼を担うことができます。私達本の作り手はジェンダー的に公正かどうかということにも常に配慮しながら本を作っていかなくてはなりません。

私は児童文学センターの教授に「どうして北欧の児童書にはタブーがないのですか?」と聞いて、逆に「どうして日本の児童書にはタブーが多いのですか?」と聞き返されたことをよく思い出します。私は今でもその答えを探し続けています。「単に日本ではそうなだけ」と言うこともできますが、私は考えるのが大好きです。物事を考える時、生きているんだ、と感じることができます。

絵本『みんな数える、みんな大事』、漫画『闘う女性たち』は読者に多様性とは何か、またなぜそれが重要なのかを教えてくれる本です。

『みんな数える、みんな大事』にあるように私は心からこう言えるようになりたいです。「みんな違って、よかった!」

 

あなたの心に特別残っている本はありますか? あるとすればあなたにとってそれはどんな風に特別なのですか?

 

特別心に残っている本は絵本『いとしいあなた』です。日本では、『ワンオペ育児』という言葉がよく使われます。それは母親のみが子育てすることが一般的な日本の社会を批判して使った言葉です。私は仕事をしながらも、いつも罪悪感を覚えます。翻訳者にとっては海外にしょっちゅう行ってその文化を知るのはとても大切なことですが、毎回罪悪感で心が押しつぶされそうになります。

Magikon社のSveinさんが日本に来た時に、日本の母親のおかれている状況について彼と話しました。彼と話していると、まるでママ友と話しているようだと感じました。男性も同じように出張の時、子どものことを思って、子どもにも同じ景色を見せてあげたいと思うんだな、と印象的だったのです。『いとしいあなた』はまるで私の気持ちを代弁してくれているような本で、私のように罪悪感に苦しむ親を助けてくれる本だと思います。そして子育ては大変なだけでなく、大きな喜びであることを翻訳を通して伝えていきたいとも思っています。

 

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「あなたの寝息が聞こえてきた。あなたはくまのぬいぐるみを抱え、眠っている。あなたのほっぺたは赤い。あなたは世界一うつくしい子。世界一すてきな子。面白くて、頭がよくて、勇敢で。あなたはわたしの子ども。わたしはあなたのお母さん」

私はしょっちゅう子育てという大きな責任におしつぶされそうになります。でも同時に母親であることをとても幸せに思っています。子どもは賢くて勇敢でかわいい存在です。

 あなたはステフン・クヴェーネランの伝記漫画『MUNCH』を訳しましたね。出版までのプロセスについて教えてくれませんか?

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クヴェーネランの『MUNCH』が他の素晴らしい本と一緒に並べられている。

2014年、ノルウェー文学普及財団Norla主催で開かれたノルウェー翻訳者会議に参加したのがきっかけでした。その会議でグラフィック・ノベルのセミナーも開かれ、そこで知り合った漫画家さんから、これまで読んだノルウェーの漫画で一番素晴らしいと思う作品として、本作をご紹介いただいたのです。

この本は一種の文学です。そのことが評価されて、翻訳賞にノミネートされたことをとてもとてもうれしく思っています。この賞の選考には翻訳だけでなく、作品自体の素晴らしさも加味されているのではないかと思います。

 私はSteffen Kvernelandの作家性に惹かれていて、最新作の『自死』(En frivillig død)も訳したいです。また今後は漫画も訳し続けたいです。『闘う女性たち』(Kvinner i kamp)『グループ』(Gruppa)、『』(Grønne greier)やLene Ask,Inger Setræの作品も訳したいです。

 

あなたは翻訳以外の仕事もしていますか?

 

私にとっては主婦業も大事な仕事です。日本では翻訳者の大半は結婚している女性です。日本には翻訳学校がたくさんあり、特に70年代、80年代には翻訳者になりたい女性が多くいました。その学校でまず翻訳をやるには他に仕事をもつか、養ってくれる旦那さんを持てと教えられた、という話を聞いたことがあります。

私も翻訳者として働きだしてから、出版社の年輩の男性編集者と翻訳料について話していた時、「(別に翻訳料が安くても)食いっぱぐれることはないんだよね。旦那さんが養ってくれるんでしょ」と言われ、悲しかったことを今でもよく思い出します。

私は子どもを保育所に入れることができず、ファミリーサポートさんに来てもらっている間に仕事をしています。ファミリーサポートの人はとても優しくていつも私は救われています。だからアンナ・フィスケの『家政婦さん』(Vaskedamen)を読んだ時、とても励まされました。

私は最近、市役所に行き、仕事をしたいから2歳の息子を保育所に入れてくださいとお願いに行きましたが、「入れない家は一杯ある。あるお母さんは、旦那さんが20時に帰ってきてから子どもを預けてファミレスに行き、仕事をしている。そういうお母さんはこの世の中には五万といる。あなただけではない」と言われました。

ノルウェー翻訳者協会のイーカ・カミンカさんとお話した時に、日本でも翻訳者協会をつくったほうがいいと言われました。マグネ・トーリングさんにも翻訳者協会の役割について教えてもらいました。「私は翻訳者です」ともっと自信を持って言えるようになりたいです。

日本では同一労働同一賃金が徹底されていません。日本ではたくさん働いても1人で暮らせるだけの十分な賃金をもらえない例えば図書館司書さんや保育士さんがたくさんいます。女性達はそのことに不満を感じていますが、憤りを表に出しません。社会から常に穏やかであるよう期待されているからです。日本では例えば母親が離婚した場合、多くの場合、貧困の道が待っています。そのことは日本の7人に1人の子どもが貧困に苦しんでいる一因となっています。

 

今、日本では『82年生まれキム・ジヨン』(“Kim Ji-young Born in 1982”)という韓国のフェミニズムの本がブームになっています。昨年私が訳したスウェーデンの『北欧に学ぶ小さなフェミニストの本』も好評でした。今後もフェミニズムの本や家族について書かれた本を訳したいです。『闘う女性たち』 Vigdis Hjorthの『生まれと育ち』( Arv og miljø )Kjersti Annesdatter Skomsvoldの『わが子』(Barnet)Monica Isakstuenの『動物に優しくしなさい』『怒り』Anna Bitschの『私をおいていくなら、あんたは私の子じゃない』(Går du nå, er du ikke lenger min datter)なども訳したいです。

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私は今種田麻矢さんと『私は今、自由なの?』という作品を訳しています。日本では、北欧のフェミニズムから学びたい人がたくさんいます。

Kvinner i kamp
『闘う女性たち』より(一番右のコマでは20世紀の初頭、ヨーロッパの女性達が、「旦那さんに養ってもらえるでしょう」と、真っ先に職場で首切りの対象とされた歴史が示されている。まるで今の日本のよう)

 

このインタビューで私はフェミニズムのことを一杯書きましたが、私が四六時中、男性支配の社会に憤っているとは思わないでくださいね。最後、『きのこと慰め』の中のお気に入りのフレーズを紹介して、このインタビューを終えたいと思います。

 

Longlitt cut
ロン・リット・ウーン

女同士が集まると、夫は生贄のように悪く言われるものだが、幸い私は夫に感謝していた。同じく幸いなことに、そのことを彼に何度も伝えてきた。私が結婚生活で、でき損ないの妻でなく、私らしくいさせてもらえたことに感謝でき、自分でもほっとしていた」

「周りの人に対するエイオルフの寛大さが、私をよき人の未亡人にしてくれた。彼がしたこと、または彼が言ったことについて、細々としたエピソードを聞かせられることで、いつも心が慰められた。いかに多くの人がエイオルフに感動させられたかに私は今でも驚かされる。子ども達だってそうだ。エイオルフは子ども達と一緒に絵を描き、また彼らのために絵を描いてやるのが好きだった。価値ある作品を遺すと、亡くなった後も、作品とともにその人は生き続ける。私はエイオルフについてのこれらの話を、貴重なエメラルドみたいに大切にしまっておくのだ」

 

私達は人間としてともに尊重し合うことができます。子ども達と皆さんの未来が、希望に満ちたものでありますように。

#国際女性デー

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