71.北欧式パートナーシップのすすめ 愛すること、愛されること

北欧式パートナーシップのすすめ 愛すること、愛されること』ビョルク・マテアスダッテル作、枇谷玲子訳、2021年3月発行、原書房

 

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(上の動画リンク https://www.youtube.com/watch?v=6s2UH69tkPE

(本書Facebookページ https://www.facebook.com/aaelskeogblielsketjapansk/

(本書Note https://note.com/reikohidani/m/m952d47b6d836

本作、『北欧式パートナーシップのすすめ 愛すること、愛されること』は2017年にÅ
elske og bli elsket―Hvordan ta vare på kjærligheten?(愛すること、愛されること――どうしたら愛を大切にできるの?)というタイトルでノルウェーで出版された本の邦訳です。ノルウェーで一番人気の夫婦カウンセラーの1人であるビョルク・マテアスダッテルが、世界の様々な脳科学や心理学の研究などを織り交ぜながら、企業、組織、図書館、文化会館、文化フェスティバルや結婚式の前夜祭、成人教育機関などで20年以上行ってきたカウンセリング、夫婦生活/恋人講座を読者に疑似体験させられるよう描いた渾身の1冊です。

本作は2017年ノルウェー文学普及団体(NORLA)夏の推薦図書にも選ばれています。

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作者のビョルク・マテアスダッテルは1964年生まれ。2013年からダーグブラーデ紙の週末別冊版ダーグブラーデ・マガシンで、月に1度、コラムを執筆。

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また夫婦生活/恋人講座の様子は、テレビのドキュメンタリー番組でも取り上げられました。

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(上のスクリーンショットは講座で夫婦喧嘩の例を示す2人。「あなたのそういうところ、お義父さんそっくりよ!」と罵倒する様をユーモアたっぷりに演じる作者) 

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本書には、共働きが当たり前のノルウェーで、どうしたら夫婦が互いをいたわり、愛情を示し合えるか? どんな言葉が誤解やネガティブな感情、喧嘩を生むのか? 良好なパートナーシップを築くコツ、家事分担を円滑に行うため、パートナーにどんな声かけをしたらよいか? など、すぐに実践できそうな具体的なノウハウが満載です。

共働きが当たり前と書きましたが、ノルウェーの統計局が2011年に発表した記事によると、ノルウェーの既婚/事実婚状態にある女性(25~59歳)のうち、労働時間が週に20時間以下の人、または主婦である人は10人に1人しかいないそうです。本作中で例として出てくるイプセンの有名な戯曲『人形の家』(1879年)の主人公ノラのように、かつてはノルウェーでも女性が家を守り、男性が外でお金を稼ぐものと思われていました。しかし1960年代前後から社会制度が整備されたり、女性解放運動が盛んに行われたり、1978 年のジェンダー平等法が制定されたり、1993年、育児休業の一部を父親に割り当てるパパ・クオータ制が導入されたりしたことで、女性の労働参加が急速に進みました。ノルウェーの男女平等政策の歴史的変遷についてより詳しく知りたい方は、『ノルウェーを変えた髭のノラ―男女平等社会はこうしてできた―』(三井マリ子・著/明石書店/2010年)などに書かれているのでぜひご覧ください。



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この本の中で、昔は一方が『王様』または『女王様』で、もう一方が、尊敬する人に運よく仕えることのできた家来であるかのように振る舞うカップルもいたと書かれています。ノルウェーでも今でもそういうカップルはもちろんいるものの、減ってきているそうです。対等であればあるほど、人間関係の質は高まり、長続きするようになると著者は言います。ただし対等というのは、同じだけ稼いでいるといった意味ではなくて、一方ばかりが、相手を尊重するのでなく、互いを同じだけ尊重することだと説きます。

 「第12章 ずっと恋人」の「熟慮する」に出てくる、家事をしてくれた夫に、ありがとうと言うべきか? という女性からの質問に対する作者の答えは、特に秀逸でした。作者はこう答えたのです。ありがとうと言うことで、パートナーに、あなたのことを見ているよ、ともに日常生活を過ごしてくれてありがとう、と示すことができるのだと。

この本を訳していて、一番迷ったのは、日本では夫婦、妻、夫、などと表現されがちな言葉
を、どう訳すかでした。ノルウェーでは、同棲事実婚のカップル(サンボと呼ばれていま
す)も、婚姻関係にある夫婦と同じく一般的で社会的に認められていて、様々な社会的権利が保証されています。また同性同士の結婚が2009年に認められています。作者は交際期間の長さ
や、同居しているか、籍を入れているかは関係なく、カップルのことを『恋人』と表現するそうで、邦訳でもできるだけ、この恋人という言葉を使うよう心がけました。普段私は日本で暮らしていて、夫婦という言葉をよく使うので、初めは少し違和感がありましたが、段々とこの恋人という言葉が好きになってきました。作者はノルウェー語の《kjæreste》(恋人)という言葉の頭につく《kjær》は「愛しい」「かけがえのない」という意味で、《kjæreste》(恋人)は、この《kjær》の最上級、つまり「最も愛しくかけがえのない人」という意味なのだと書いています。この本には、最も愛しく、かけがえのない恋人をどう大切にし、愛することができるかが示されています。本書の邦題で使われているパートナーシップという言葉も、夫婦生活、夫婦関係などといった言葉より、ずっと本書に合っているように思えます。作者の意図をくみ取り、パートナーシップという言葉を使おうと考えてくださった原書房の善元温子さんにこの場を借りて改めて感謝いたします。

作者は「第7章 喧嘩と傷ついた心」の「コミュニケーションの4つの落とし穴」の中で、あ
まりに多くの人たちが、パートナー/恋人を、足蹴にするかのように、間違いを指摘したり、低く評価したりする人が多過ぎると言います。日本でもパートナーのことを『愚妻』などと表現する人がいる/いたように思えます。作者は、多くの人が、愛する人にするべきことと全く逆のことをしていると説きます。そして誰かの足を踏んだら、大半の人はすぐに謝るものなのに、心を踏みつけてしまった場合には、大半の人たちは残念ながらそれとは真逆の戦略をとって、「それぐらいで目くじら立てるなよ!」「ただの冗談だろう」「俺はそういう人間なんだ」「正直であるのが一番よ」などと、傷ついたのは傷ついた人の責任であるかのような物言いをしますが、作者はそのような考えに大反対だと言います。

 

この本の中で訳者にとって特に印象深かったのは、「第11章 愛の時間」に書かれていた、携帯電話の使用についての記述です。昔から今に集中することは、人間にとっての難題だったようですが、携帯電話が一般にまで普及した現代では、それがさらに難しくなってきているようです。家族で一緒にいるのに、携帯電話の世界に夢中になる現代人の実態と、そのことが人間関係に及ぼす弊害が、携帯電話の使用についての様々な科学研究も交えながら、記されています。家族とくつろいでいる時や夕飯中に携帯電話の通知音が鳴った時、つい仕事のメールではないかとチェックしてしまったりする訳者には、身に覚えのあることが多く、ドキリとさせられました。この章では、以下のような携帯電話の使用にまつわる研究が示されていてとても説得力があります。

 

●バージニア工科大学の研究により、話をしている時に、テーブルの上に携帯電話が置かれている場合、携帯電話が視界に入っていない場合と比べ、会話の満足度が下がることが分かった。

●テキサス州のベイラー大学の研究により、70パーセントの人が携帯電話の使いすぎにより、恋人から邪険にされていると感じていると分かった。

●ノルウェー経済大学が行った調査で、ノルウェーの人たちが携帯電話を6分に1度チェックしていることが分かった。

作者はこの章で、携帯電話の向こう側の世界ではなく、目の前にいる大切な人に意識を向ける
ため、簡単に実践できる具体的な施策を示してくれています。

 「第9章 日々の愛と家族生活」の「お金か生活か!」では、様々な研究データを示しながら、共働き世帯の家計管理について赤裸々に書かれていて興味深いです。ノルウェーでは近年、財布を一にする夫婦が減ってきているそうです。パートナーの一方が1人で家を所有し、もう一方が家賃を払うカップルも珍しくないそうです。ですが作者は財布を一にすることで、連帯感が増すと言います。そして一方が一家の家計を主に支えていようと、家事を主に担っていようと、自分の方が相手よりも偉いと考えないようにしようと呼びかけます。互いを対等に扱い、パートナーを尊敬していること、信頼しているということを、家計を一にしお金を共有することで示すことができると。

また「第9章 日々の愛と家族生活」の中の「たかが食事、されど食事」では、食事を一緒にとることで、家族の連帯感が増すことが、様々な研究結果を示しながら説かれていました。ど
の研究も興味深かったのですが、特にマリ・レゲ教授とアリエル・カリ教授により行われたノルウェーとカナダの共同研究で、父親が家族と食事を一緒にとる時間数が全体平均より
15分多い家庭の離婚率は、食事時間が全体平均より15分少ない家庭に比べ、30
パーセントも低いことが分かったというところは、身につまされました。このようにノルウェーでは、男性の家事・育児参加について様々な研究が行われているようです。

同じく第9章の中の、ジェットコースターみたいな日々では、私たちはタスクや仕事に実際に
かかる時間を平均40パーセント少なく見積もりがちであるということを示すペンシルベニア大学のギャル・サウバーマン教授らによる研究も出てきました。

第9章中の「日々、恋人」では、恋人らしくいるために、ベビーシッターにわざわざ子どもを
預けてデートに行く必要はないと作者は言います。また第5章「愛の言葉と感情」の中で作者は、ジムで体をしぼったり、身だしなみを整えるよりも、窓を拭いているところや、床掃除をしているところ、子どもと遊んでいるところ、ドアのノブを修理しているところを見て、魅力を感じる人も多いとしています。作者は「妻と夫でなく、恋人になろう!」と読者に繰り返し呼びかけます。

「第5章 愛の言葉と感情」で人はポジティブな感情よりも、ネガティブな感情にずっと影響
されやすいもので、カップルが良好な関係を保つには、ネガティブな感情を1個抱いたら、ポジ
ティブな感情を最低でも5つ、抱く必要があると書かれていました。これまで訳者である私の心
も、主に家事・育児の分担について、夫に対するネガティブな感情で占められていました。ですが、3カ月間、毎日、作者の言葉を訳しているうちに、私の心は感謝の気持ちで満たされていきました。著者のビョルクさんのおかげで、夫が―こう書くのは、まだちょっと照れくさいのですが、私の恋人が―そばにいてくれるのが当たり前なんかじゃないのだと、再認識することができました。ビョルクさんの言葉が私に、出会った時からずっと、翻訳家になる夢を応援し続け、また一緒に子どもを育ててきてくれた夫の献身と愛を気付かせてくれたのです。夫からもこの本を訳し出してから、イライラしていることが減って、優しくなったね、と言われます。私がこの本を訳していて感じることができた、幸せでぽかぽかした気持ちを、読者の皆さんにも味わってもらえるよう、心を込めて訳しました。ビョルクさんの『恋人講座』をどうか皆さん、お楽しみください。

出版社サイト

 

(作者自己紹介動画)

https://www.youtube.com/watch?v=2wnKAcvoEKs

 

samazama
はじめまして。ビョルク・マテアスダッテルです。
 私はノルウェーの作家で、カップル・セラピストです。
 愛を大切にしたいと願うカップルのお手伝いを20年近くしてきました。
 この度出版される『北欧式パートナーシップのすすめ』には、愛に満ちた生活を送るために最も大切な事柄について存分に書きました。
様々な研究結果、セラピーで出会ったカップルの話、30年間の私と夫の愛の生活での体験談がつまっています。
 この本が日本で出版されると聞き、喜びと感謝の思いで一杯です。
 人生で最も大切なものーーつまり愛を慈しむ術を身につけるお手伝いができたらと願っています。

 私達には皆、愛し、愛される人が必要なのですから。

(Facebookページ https://www.facebook.com/aaelskeogblielsketjapansk/

(Note https://note.com/reikohidani/m/m952d47b6d836

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