『「恥をかくのが怖い」から解放される本 自己肯定感を高めて、自分らしく生きるレッスン』(イルセ・サン著、誠文堂出版社)が発売になります。HSPについて書いた『鈍感な世界に生きる敏感な人たち』が人気の著者による最新作です。どうぞよろしくお願いします。
TRANSITにインタビュー記事が掲載されました
TRANSIT No63 の『遠くへ旅する小さな言葉』のコーナーに、トーヴェ・ディトレウセン『結婚/毒 コペンハーゲン三部作』についてのインタビュー記事が掲載されました。是非ご覧ください。
合同会社子ども時代のHPをオープンしました
この度、ひとり出版社合同出版子ども時代のHPをオープンしました。
ぜひ覗いてみてくださいね。
今後も翻訳者としての活動は続けます。請負の仕事については引き続き、こちらのページでお知らせいたしますのでどうぞよろしくお願いします。
73.地球で暮らすきみたちに知ってほしい50のこと、お薦めの問い
『地球で暮らすきみたちに知ってほしい50のこと』で特に面白い問いとその答えを紹介させてください。
それは「人類の歴史で最も大きな発明は何?」という問いとその答えです。時計も地球も印刷機もインターネットも、どれも偉大な発明です。
答えはひとつではありませんが、著者のお気に入りの答えは 鏡です。
鏡もガラスもなかった時代は、水面などに自分の姿をちょっぴり映す時ぐらいしか、自分の姿を見る手段はありませんでした。鏡の登場により、どうしたら他の人より美しくなれるだろう? と他者と自分を比べるように。どうしたら成功できるだろう? など延々と考えるようになったと著者は書いています。
やがて人類は宇宙ロケットという新しい種類の『鏡』を手に入れました。
これにより人間は、地球全体を外から見られるようになりました。地球の美しさに人々はうっとりしました。
同時に人々は宇宙の中で地球はいかに小さく、いかに脆そうかをまざまざと見せつけられ、不安をもかき立てられました。
『地球で暮らすきみたちに知ってほしい50のこと』どうぞよろしくお願いします!
73.地球で暮らすきみたちに知ってほしい50のこと
『地球で暮らすきみたちに知ってほしい50のこと』ラース・ヘンリク・オーゴード 著 枇谷玲子 訳 晶文社
(どんな本? この本との出会い)
本書『地球で暮らすぼくたちが知っておきたい50のこと 宇宙の誕生から社会と人生の問題まで』は、今のデンマークで最も読まれている子ども向けの科学ノンフィクションのひとつです。本作にはじまるシリーズは、2作目の『月は何でできているの?――博士への50の新たな質問』(2016年)(2017年オーラ賞ノミネート作)とあわせておよそ3万部(デンマークの人口はおよそ580万人なので、日本の人口に換算すると、60万部に相当)売れています。
この本はデンマークの児童書書店やブックフェアでも大きく扱われていました。また2020年に2作の合本版『世界に存在する最も大きなものは何? ――博士への101の質問』までもが刊行されたことからも、この本がデンマークの子どもの疑問に答える科学書の定番書の地位を築いていることが分かります。
(ゆっくりと時間をかけて書かれた本)
https://www.berlingske.dk/emne/lars-henrik-aagaard
この本は元々はベアリングス紙という新聞社が出している子ども抜けの『キッズ・ニュース』の質問コーナー『博士に聞こう』で、著者であるジャーナリストのラース・ヘンリク・オーゴードが、子ども達から実際に寄せられた疑問に書いてきた答えをまとめたものです。つまり、新聞という大きな媒体でゆっくりと時間をかけて発表し、新聞の読者の反響を知った上で、単行本化に当たり、改めてそれらの質問を整理し、より分け、まとめ直したのが今回の作品です。じっくりと丁寧に時間をかけ練りに練って書かれているのが読み取れるのは、そのような成り立ちが背景となっています。
(デンマークの子ども観の変化――子どもがなぜ? と疑問を持つことが肯定されるように)
突然ですが、ここで作者の出身国であるデンマークでとても有名な、『なぜなぜヨーアン』(原題Spørge Jørgen、Kamma Lautent作、Robert Storm Petersen絵、Gyldendal)という作品を紹介させてください。
1944年に出版されたこの絵本で、主人公の男の子ヨーアンが、「どうして外を歩く時、帽子をかぶらなくてはならないの?」「どうして爪は指についているの? 鼻に爪がついていた方が面白いのに」「どうして豚はワンじゃなくて、ブーと鳴くの?」など、なんでもかんでも「なぜ? なぜ? どうして?」と質問をします。そんなヨーアンにお父さんは腹を立て、お尻を叩き、ベッドに放りこみます。ベッドの中からヨーアンは「どうして、遊んじゃいけないの?」「どうして僕のお尻はこんなに痛いの?」「もうふざけちゃいけないの?」と悲しい顔で聞き続け、物語は終わります。
『なぜなぜヨーアン』が出版されてから70年以上たつ今のデンマークには、ヨーアンのように大人達が当たり前と思っている事柄に疑問を抱き、質問をし、探求する子どもを面倒と思う大人がいまだにいる一方で、「よく気付いたね」「疑問を持つことは素晴らしいことだよ」と褒める大人も多くいると本書についての新聞書評に書かれています。子ども達が抱く疑問の多くは、科学者をはじめ大人達も答えを探し続けている問いと一致していることが多くあるからだそうです。このようにデンマークの子ども観、科学教育のあり方は70年間で変わってきているようです。
(類書)
(子どもの疑問に答えるのは楽しい)
訳者自身、子育てをする親ですが、子どもの疑問に答えるのは、子育ての面白さの1つだと常々感じています。子ども達が「なぜ、どうして?」と聞いてくる事柄には、よくよく考えると、自分自身もよく分かっていないことがたくさんあって、たくさんの気付きがあります。
(なぜ人は死ぬの?)
今回の本の中で特に子育てをしていて子ども達からよく聞かれるのは、「なぜ人は死ぬの?」など生死に関する疑問です。私自身も子どもの時に夜寝る前に、いつか自分も死ぬんだと思って怖くなって眠れなくなったことがあるのを思い出しました。母にその質問をすると「もう遅いから早く寝なさい」と言われてしまったのですが、その話を北欧の人にすると決まって面白がられます。生死など根源的な疑問について大人と子どもが話すのは、今の北欧の人達にはごく当たり前のことで、いいから、そんなこと考えていないで寝なさいと大人が答えるのはすごく可笑しく思えるのだそうです。そういうことを子どもも一杯考えて、大人とも話し合うのがいいよね、と言われたこともあります。
(死についてもっと考えたい人にオススメ)
(生き延びるために人と生きることにしたオオカミ達)
私がこの本に書かれている疑問と答えについて話をした時に、下の息子が興味を持ったのは、特に一部のオオカミが家畜化して犬になったという話です。その話を聞いて目を丸くする5歳の息子の表情が目に焼き付いて離れません。
(進化についてもっと知りたい人にオススメ)
(どうしたらお金持ちになれるの?)
長女は今中学校2年生ですが、特にどうしたらお金持ちになれるの? など将来の進路に関わる疑問とその答えに関心を持っていました。
(月の満ち欠け)
また長女が小学生の時に、理科で習った月の満ち欠けについて質問された時に、当時まだ赤ん坊でいつもおんぶしていた息子の頭にランプの明かりが差していることに気付き、息子の頭を月、ランプを太陽に見立てて、ランプのまわりをくるくる息子とまわって、月の満ち欠けについて説明した時のことをよく覚えています(息子、ごめんね 笑)。
(現地での評判)
本作は、デンマークの新聞で、同国でも大変評判の高いアメリカの作品、『人類が知っていることすべての短い歴史』(ビル・ブライソン作、 楡井 浩一訳、NHK出版、2006年/新潮文庫、2014年)に通じる作品であり、同書と同じく、様々な科学的要素がばらばらになることなく、一本の糸でしっかりとつながっている、と評されています。
(対象年齢)
デンマークの出版社が想定していた本書の主な読者は6~13歳ぐらいだったようですが、実際に出版してみると、子どもだけでなく、様々な世代に読まれているようです。また新聞の書評では、科学マニアや大人も時にうなるような意外性に満ちた鋭い答えが詰まっていると評されました。
(日本にゆかりのある著者――日本の震災、津波の報道も)
著者のラース・ヘンリク・オーゴードは1961年デンマーク生まれで、オーフスのデンマークジャーナリスト大学でジャーナリズムを学び、卒業してすぐの1988年からベアリングス紙というデンマークの新聞社で文学(1990~96年)、文化(1998~2001年)関連の記事を担当。2002年からは気象や天候、自然災害や宇宙学を主な専門とする科学ジャーナリストとして社会面などで様々な記事を執筆。また毎週土曜に同紙で『科学』というコラム・コーナーを執筆。コラム『科学』は現在も続いていて、最近では日本におけるオリンピック開催について報じたりhttps://www.berlingske.dk/videnskab/nu-aabner-verdens-stoerste-og-mest-stille-show-endelig-under-farceagtige
コロナ関連の科学記事を書いたりしています。
https://www.berlingske.dk/videnskab/international-maskeekspert-med-opfordring-til-danmark-genindfoer
また過去のコラムでは、アイスランドの火山噴火や、
福島の地震・津波・復興、原発再稼働問題をはじめとする自然災害について、
気候変動について、
エコ関連のコラムや、宇宙についてのコラム、社会や経済、人々の生活についてのコラムなども書いています。
著者は2011年の日本の津波と原子力発電所や、同年のノルウェーのオスロとウトヤ島のテロに関する報道に対し、2012年ベアリングス紙ジャーナリスト賞を得ているのですが、日本の津波、原子力発電所について取材をしてきたことや、日本人の奥様と結婚されたことから、日本について造詣が深いようで、日本の子ども達により分かりやすく修正、改編をする際、機知に富んだアイディアとアドバイスをくださいました。また巻末では、日本に関する知識を生かし、日本の読者に向けたメッセージも執筆してくださりました。
(記者としての経験を生かす)
本書の中で作者が宇宙をはじめ、一見すると私達の生活とは無縁で遠く思えるような事柄を、身近な生活、社会と上手に結びつけ、科学が私達の生活とどうつながっているのか示したり、私達が宇宙、自然により生かされているのだと実感を持てるような書き方をしたりできるのは、日々、新聞紙でたくさんの一般読者に向けた記事、コラムを書いているからなのかもしれません。これまで科学者や哲学者をはじめたくさんの大人達が向き合ってきた、大きくて根源的な疑問に、4ページ程度で答えていくのは至難の業に思えます。洗練された言葉と、難しい事柄を全ての人に分かるように整理し、論理を展開する力も記者の仕事を通して培われたものなのでしょう。
(著者のその他の著作)
著者は『地球が荒れ狂う時――地震、津波、火山噴火、竜巻』(2006年)
『デンマークの荒天』(2011年)
『宇宙への旅――地震、火山、人間、気候、地球の誕生から滅亡まで君が知りたいこと全て』(2018年)
『月についての大きな本――月旅行、月についての事実、月についての発見、月の未来についての全て』(2019年)
『気候に詳しくなろう――気候変動について理解し、地球に優しい生活を送れるようになろう』(2019年)
をはじめ、子ども向けの科学ノンフィクションを多く出していて、作家としても定評があります。
今回の作品はそんな著者の代表作です。ぜひご覧ください。
OASISに寄稿
港区立男女平等参画センターリーブラ発行の男女平等参画情報誌OASIS69号に寄稿しました。
『物語から学び、考える「ジェンダー平等」のかたち』。書評家の倉本さおりさんが韓国をはじめとする国々の作品を、私は北欧の作品を紹介しています。
https://www.minatolibra.jp/wp-content/uploads/2021/07/69_oasis_small_1p.pdf
貴重な機会を与えてくださったリーブラさんに感謝します。
文学フリマに出ます
72.My Child わたしの子
『My Child わたしの子』ヒルデ・ハーゲルップ作、クリスティン・ローシフト絵、ひだにれいこ訳、英治出版、2021年
この本との出会い:http://reikohidani.net/1915/
動画:
母の日のプレゼントにもどうぞ!
北欧会議文学賞か、北欧理事会文学賞か?
北欧会議、それとも北欧理事会?
北欧にはNordisk Råds Litteraturpris(The Nordic Council Literature Prize)という大きな文学賞があります。そちらについて、所属している北欧語書籍翻訳者の会のNOTEに書きました。スペースの都合上、そちらに詳しく書けなかったのですが、同賞を北欧会議文学賞と訳すべきか、北欧理事会文学賞と訳すべきか、ちょっと考えてみたいと思います。
Nordisk Råd(The Nordic Council)とはそもそも何?
Nordisk Råd(The Nordic Council)という言葉は訳語が割れています。
たとえば平凡社の世界大百科事典で、北欧史の専門家である早稲田大学の村井誠人教授は北欧会議としています。
北欧会議
Nordisk Råd
1952年以来,デンマーク,アイスランド,ノルウェー,スウェーデンの各国議会および政府の代表により毎年定期的に開催されている評議機関(第1回は1953年),56年からフィンランドも参加し,アイスランドの6議席を例外にそれぞれ18議席を有し,さらに議決権のない各国政府代表をオブザーバーとして構成されている。ただし,69年の規約改正によって,デンマークのフェロー諸島,フィンランドのオーランド諸島の両自治領も議席を有し,さらにグリーンランドがデンマークで自治領化した(1979)のに伴い,議席をもった。しかし,デンマークおよびフィンランドの両本国代表の議席数が減じたので,当会議の総議席数に変化はない。北欧会議は当該2国間以上にかかわる問題を討議し,採択事項を各国政府あるいは北欧閣僚会議へ勧告する機能をもつ。各国政府はその決定に従う義務はもたないが,北欧共同労働市場,北欧諸国間旅券無審査制等に代表されるように,現実には多くの決定が実行に移され,北欧経済連合(NORDEK)案が70年に成立にいたらなかったなどの経済政策面を例外とすれば,北欧諸国間協力を考えるうえで社会・厚生・文化政策面での当会議の役割はきわめて大きい。なお,通常用いられる訳語中,〈北欧理事会〉はその実際的機能の内容から的確性を欠くきらいがある。
一方、日本大百科全書(ニッポニカ)の北欧文学の項で、東海大学の福井信子教授は北欧理事会としています。
Googleで検索すると北欧会議文学賞のヒットはわずか3件、北欧理事会文学賞のヒットは8,620件でした。
Google書籍検索のヒット数には差はほとんどありませんでした。
北欧理事会/会議文学賞とは何なのか?
集英社世界文学大事典では、この賞について、次のように書かれています。
北欧会議文学賞
[デンマーク]Nordisk Råds Litteraturpris,
[スウェーデン]Nordiska rådets litteraturpris,
[フィンランド]Pohjoismaiden neuvoston kirjallisuuspalkinto,
[ノルウェー]Nordisk Råds litteraturpris,
[アイスランド]Bókmenntaverðlaun Norðurlandaráðs
北欧
デンマーク,フィンランド,アイスランド,ノルウェー,スウェーデンの北欧5カ国の文学作品を対象に毎年1名に授与される文学賞。1961年に北欧会議により,北欧諸国相互の文学と言語ならびに北欧文化一般に対する関心を高める目的で創設。翌62年の第1回受賞者はスウェーデンの作家エイヴィンド・ユーンソン。先述の5カ国からそれぞれ2名が選考委員となり,計10名よりなる選考委員会が毎年1月20日ごろにその年の受賞者を決定する。デンマーク,ノルウェー,スウェーデン文学の場合は過去2年間,そのほかの北欧諸国の場合は過去4年間に発表された文学作品が選考の対象となる。長編小説に限らず,短編集,詩集,エッセイ,戯曲と,文学性・芸術性の高い作品であれば各国の国内選考委員会が候補作品として推薦できる。1996年までの35年間にスウェーデンが13回,ノルウェーが6回,フィンランド,デンマーク,アイスランドがそれぞれ5回,北大西洋のデンマークの自治領フェロー諸島が2回受賞している。65年にはフェロー諸島のハイネセンとスウェーデンのウーロヴ・ラーゲルクランツが異例の2名同時受賞を果たした。受賞作は必ずしも受賞者の代表作ではないが,いずれも極めて質の高い作品が選ばれているのは否めない。受賞作品はほぼ自動的にほかの北欧諸語に翻訳・出版されるため,北欧圏内での普及は保証されているが,今後は地域性に固執せず,もっと国際性を指向すべきであろう。
執筆者であるデンマーク文学者の橘要一郎さんも、北欧理事会でなく、北欧会議という訳語を使っています。どちらがよいか結局結論は出ないのでした。
この記事を読んでいる北欧語の専門家で、訳語について、ご意見ある方がいたら、ご連絡いただけると、とても嬉しいです。
エトセトラブックスに寄稿
フェミニズム専門出版社エトセトラブックスに寄稿しました。
大好きなトーヴェ・ディトレウセンについて書いています。エトセトラブックスさん、ありがとうございました!
No.6「億万長者と結婚するか、50歳になってから子どもを産めない限り、女性が作家としてものを書くのは難しい」――デンマークの作家、トーヴェ・ディトレウセン(枇谷玲子)