Reiko Hidani HP

25. 地球から子どもたちが消える。

kodomo
地球から子どもたちが消える。 (汐文社) – 2015/4
シモン ストランゲル (著), Simon Stranger (原著), 枇谷 玲子 (翻訳), 朝田 千惠 (翻訳)

 

(あとがき)

二〇一四年八月にノルウェーで発表された本作は、すでにノルウェーの新聞などで取り上げられ、「世の中を動かす作品」、「近年で一番大切なヤングアダルト作品」などと評価されています。またノルウェーのヤングアダルト賞、『UPRISEN』や、『本のブロガー賞』にもノミネートされています。
このお話は楽しい話ではないかもしれません。特にラストはショッキングです。ノルウェーでも例えばあるブロガーが、「中学生の息子が横でこの本を読んでいるのを見て、一瞬止めようかと思いました」と書いているように、ノルウェー人にとっても刺激が強いもののようです。
ただそのブロガーはこう続けています。「でも夢中で読んでいる姿を見て、声をかけるのは止めました。この本には目をそむけたくなるようなつらい現実が描かれているけれど、その現実をそろそろ見せてもよいのではないかと思ったのです。その後社会問題について考えるようになった息子を見て、選択は正しかったんだと思いました」
私も初めこそ戸惑いましたが、難民認定の実態を書籍で調べるうちに、残念なことではありますが、この作品の内容は現実に即していることに気がつきました。
このシリーズはたくさんの国に翻訳紹介されています。そのうちのひとつである東アジアの国の翻訳者と、この作品についてメールのやりとりをした時、これは東アジアの子どもたちに伝えるべき作品だね、いうことで意見が一致しました。東アジアの子どもたちは大人から守られすぎていて、世界で実際に起こっている宗教的対立や戦争についてほとんど知らない。子どもは私たち大人が思っている以上に賢く、深く考えることができるのではないか、と。この本の価値を決めるのは私たち大人ではなく、子どもの読者なのでは、と。
私たち大人は、子どもの本のよい悪いを、一面的に判断してはいないでしょうか。子どもは夢中になれる物語を求めています。私は子どもが真に求めているのがどんな物語なのか、これからも考え続けたい。この作品を訳してそんな思いを一層強くしました。
『UPRISEN』のサイトでは、ノルウェーの読者の感想を読むことができます。ふたつほど紹介しましょう。「ハッピーエンドはただすかっとして終わりだけど、この本を読んで、世の中にはたくさんの人がいて、誰しもが必ずしも幸せな人生を送れるとは限らないってことを知れたのは、よかったと思う」、「僕はこういう悲しい本を好きだと思ったことは今まではなかった。この本を読んで初め、僕はすごくびっくりした。そして恐ろしいのに、ページをめくる手が止まらなかった。こういう読書体験は初めてだった。僕の中で、新しい本への価値観が目覚めた気がした」
作者はさまざまな資料を読みこんだり、アムステルダムに取材旅行などした上でこの作品を書きました。伝えたいという強い思いを持った作家さんです。また温かで人間味に溢れ、人道的な目線や語り、子どもたちの心にまっすぐに届く簡潔で、それでいて美しい文章が、この本をただの「おりこうさん」のための本ではない、文学作品にまで引き上げています。
日本の難民認定の実態を知りたい人は、ぜひ『壁の涙―法務省「外国人収容所」の実態』(「壁の涙」製作実行委員会編集、現代企画室)

『母さん、ぼくは生きてます』(アリー・ジャン作、池田香代子訳、マガジンハウス)を読んでみてください。

また文學界新人賞を受賞し、高校の英語の教科書にも収録された、『白い紙/サラム』(シリン・ネザマフィ作、文藝春秋)もお薦めです。

枇谷 玲子

 

(作者の言葉)

日本の読者のみなさんへ

 

「サミュエルはどうなったの?」

「『ドコカ行き難民ボート。』の後、サミュエルは無事なの?」

これはシリーズ一作目にあたる『ドコカ行き難民ボート。』がノルウェーで二〇〇九年に出版された後、僕が何度もされた質問です。その質問に僕は全くもって答えることができませんでしたし、その答えとなる続編を書こうとは思っていませんでした。

ところがある日、エミーリエが出てくる物語がぱっと僕の頭に浮かびました。それが『このTシャツは児童労働で作られました。』(ノルウェーでの出版二〇一二年、日本での出版二〇一三年)です。そのころも、例の二つの質問は、僕の頭の中で響いていました。解決されぬまま。

そして『このTシャツは児童労働で作られました。』がノルウェーで出版されて少しして、また僕の前にある場面がぱっと浮かびました。サミュエルが窓をたたく音で、エミーリエが目を覚ます場面が。今度の舞台はエミーリエの暮らすノルウェーでした。そこから物語がどう展開していくのか、考えるのが僕の役目です。サミュエルがどうやって、何のためにノルウェーにやって来たのかを。

さまざまな点から、この本は希望を失った人を描いたドキュメンタリーであると言うことができます。人は希望を失うと、どうなるのでしょう? 人は今よりよい生活が送れるようになることや、明るい未来が待っていることを信じられなくなったら、一体どうなるのでしょう? 全ての光が消え、生きることに伴う闇は次第に膨らみ、その人は飲みこまれてしまうのです。

これはシリーズ最終巻です。このシリーズは作家である僕を、世界に連れて行ってくれました。物語の中でも、現実にも。こんな風に物語を終えざるをえなかったことについては、作者として胸を引き裂かんばかりの思いでいます。でもこれは事実なのです。この物語の着地点は実際、ひとつしかありえませんでした。

僕と一緒に旅をしてくれてありがとう。どうか自分のことを大事にしてください。日々を楽しむことも忘れないで。君が望む人生を、君が送ることのできる人生を、精いっぱい生きてください。ここにあるもの全てに感謝しましょう。

そうすることで、さらなる本との出会いが訪れるのです。新しい日々が。新しい物語が。

シモン・ストランゲル

参考:TED 絶望してばかりもいられない。平和な世界をつくるため、動き出す人達。そしてそれはきれい事なんかじゃない。

参考:TED 格差を減らすために私達ができること。飢饉、 病気、 紛争、 腐敗――そんなアフリカのイメージが変わりつつある。経済成長とビジネス・チャンスというアフリカの新たな一面に、なぜか人々は目を向けようとしない。アフリカの経済学者の話。

参考:伊勢丹バイヤーを動かした一人の主婦の熱意 アフリカ布バッグの奇跡
http://withnews.jp/article/f0170130001qq000000000000000W05u10301qq000014572A

参考:

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