(読書メモ)『小さな金の指輪』(En liten gyllen ring)、シェル・オーラ・ダール(Kjell Ola Dahl)

[読書メモ]

『小さな金の指輪』(En liten gyllen ring)、シェル・オーラ・ダール(Kjell Ola Dahl)★★★

http://www.salomonssonagency.se/books/en-liten-gyllen-ring

en-kjell_ola_dahl-en_liten_gyllene_ring_large

2000年リヴァートン賞受賞作。2000年ブラーゲ賞ミステリ部門、ガラスの鍵賞、マルティン・ベック賞外国作品部門ノミネート作。

シリーズ2作目。シリーズは現在までに7作出ている。

英国のミステリ評論家で、ミステリ情報サイトhttp://www.crimetime.co.uk/mag/を運営するBarry Forshaw氏は、著書の“Nordic Noir: The Pocket Essential Guide to Scandinavian Crime Fiction, Film & TV”のノルウェーの章で、作者の一連の作品を”My Choice”に選んでいる。また巻末の最優良北欧ミステリ20作の1つに、本作『小さな金の指輪』を挙げている。

nordicnoir

***************************************************

麻薬更生施設で治療を受けている若く美しい女性、カトリーネが勤務する旅行代理店に、柄の悪い男が突然やって来た。男はどうやら過去にカトリーネと何かあったようだ。

その夜、カトリーネは更生施設を営むガルハーソンとオースの夫妻の自宅パーティーに招待される。初めカトリーネは同年代のオーレという恋人と行動をともにしていたが、オーレが別の女性に興味を示し、カトリーネそっちのけで女性にアプローチをはじめてしまう。カトリーネはカトリーネで、パーティーの主催者の1人であるガルハーソンと何やらわけありの様子。この場面ではカトリーネの不安定な心情風景や、奇妙にゆがんだ人間関係が描かれているが、どうしてカトリーネがそんな思いでいるのか、またそれぞれの人物の関係性が謎を込めて描かれており明らかにされていない。そして気分が悪くなったカトリーネを更生施設で働く若い男性ヘニングが車で送っていくことに。一方、恋人のオーレ達は町にあるバーに繰り出す。カトリーネとヘニングは車の中で体を重ねた後、眠ってしまう。先に目を覚ましたカトリーネは、車の外である異変に気が付いた。(その後カトリーネに何が起きたのかはここでは書かれていない)

その後、場面は警察に移る。グンナストラナとフランク・フルーリックの捜査官コンビのもとに新たな事件が舞い込んできた。ある若い女性が遺体となって発見されたのだ。その女性とは導入部に出てきたカトリーネであったことが明らかになる。2人はパーティーの参加者に聞き込みを行うのだが、それぞれの人物にうしろめたいところがあるようで、彼らの口から様々な嘘が出てくる。2人は丹念な聞き込み捜査によりその矛盾を暴き出し、パーティーやパーティー後のカトリーネの足どり、各人物の行動を丁寧に紐解いていく。また最初の場面でカトリーネの勤務する旅行代理店にやって来た男とカトリーネの関係性も明らかになる。この聞き込み捜査が作品の大半であり、最後の3分の1で登場人物のうちの1人が自殺を遂げるまで、派手な出来事は何も起きない。読者はとにかく頭を働かせて、それぞれの証言の矛盾点を探しながら、捜査官2人とパーティー参加者のやりとりや2人の捜査官同士の議論の様子を見守ることになる。また最後の3分の1でカトリーネの産みの親が、カトリーネが生まれたばかりの頃に殺されたことが明らかになり、その事件と今回のカトリーネの事件の関連性を含め、2人は捜査をしていくことになる。また自殺した男性がカトリーネ殺しの犯人なのかも明らかになっていく。

***************************************************

麻薬中毒、男女間のもつれた愛情などがテーマになっている作品だが、テーマ自体には日本の読者は特に惹かれないのではないかと思えた。この作品の一番の長所は、読者が2人の捜査官とともに、ともに推理しながら事件の真相を追うことができる点、捜査に飛躍や破たん、矛盾がない点だ。陰鬱でエロティックな男女関係が描かれたロマンス小説を思わせる導入部から、警察署の場面に切り替わるところではトーンの変化に興味を惹きつけられたが、その後は非常に堅実だが地味な捜査が続き、読むのに少し根気がいるかもしれない。捜査の様子は、Jørn Lier Horstの『猟犬』に近いが、Jørn Lier Horst氏のように警察官としての経験を生かして書いたわけではなく、また捜査官達が『猟犬』の主人公のように誠実で人柄がよいわけでも、強い信念を持った捜査官としての生きざまを感じさせられるわけでもない。かといって破天荒なわけでもなく、2巻の時点では強い個性は見受けられなかった。

ただ謎解きの部分の評価は非常に高いようで、英語圏を含む15か国語に翻訳されている。全体としては最新作で単発の『Kureren』(秘密工作員)の方が素晴らしく思えたが、謎解きの部分だけでいえば、本作の方が上なのかもしれない。

本作は2作目だが、1作目を読んでいないと分からない箇所はなかったように思えた。

英語のレビューはこちら→http://www.goodreads.com/book/show/6741921-the-last-fix

http://www.amazon.com/Last-Fix-Oslo-Detectives/dp/0312672527/ref=sr_1_5?s=books&ie=UTF8&qid=1454901153&sr=1-5&refinements=p_27%3AK.O.+Dahl

 

***************************************************

次作、3作目、第二次世界大戦がテーマの1つになっている『窓の中の男』は文学サイトforfatterne.netの最優良ミステリに選ばれ、18か国語に翻訳されているようだ。そちらに期待したい。

http://www.salomonssonagency.se/books/mannen-i-vinduet

(ミステリ断筆宣言)

作者は2012年にAftenposten誌でミステリというジャンルから身をひく、これからはミステリというジャンルにこだわらず自分が本当に書く必要があると思う事柄について書いていく、その中で殺人をテーマにすることもあるかもしれないと述べている。http://tomegeland.blogspot.jp/2012/06/derfor-slutter-kjell-ola-dahl-skrive.html ミステリというジャンルの商業化が進み、新作が次々と出され、もっともっとと刺激を求める読者の要望にこたえるため、アクションや暴力シーンをたくさん入れるよう編集者から要求されたり、ヒーローとそれに相対する敵が登場し、どんでん返しが何度もあるミステリが、一様によい作品とみなされたりするミステリの世界に身をおいてきたことで、このジャンルに対するモチベーションを失ってしまったそうだ。また作者は書きたいという情熱、喜びに満ちていた新人作家達が出版社の都合や要求に振り回され、デビュー作での輝きを次第に失っていく昨今のミステリ界を憂えている。ミステリ断筆宣言から3年の月日がたち、本当に書きたいことを書いた、『秘密工作員』(Kureren)が本国でブラーゲ賞のミステリ部門に入賞。リヴァートン賞も受賞し、「ミステリ」として高い評価を受けている。『秘密工作員』(Kureren)はシェル氏の作家人生の集大成であるとともに、「書くこと」やミステリというジャンルに対し、彼が出したひとつの答えと言えるのかもしれない。

kjell

 

LINEで送る
Pocket

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です